□勝利の女神の微笑む先は
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「お前さんにはまだ早いっての」

目の前でけらけらと楽しそうに笑う男を見て唇を噛み締める。ぽんぽんと俺の頭を叩く大きな掌が、この時ばかりは極限に憎らしく感じられる。

「俺は餓鬼ではないっ!!」

「そーやってすぐ怒るところがまだまだお子ちゃまなんだよ」

好きだと初めて告げたのはいつだっただろうか。所謂『一目惚れ』というやつだった。ユニを助ける為に颯爽と現れた、王子のようなこの男に俺は一瞬で目を奪われてしまったのだ。

「俺は本気でお前の事が好きなのだ!!」

何度こう言ったか分からない。百蘭との戦いを終えてから、俺はずっとこの男に纏わりついては好きだと伝え続けている。

「俺はそんなお子ちゃまに興味ねぇよ」

ぐさり。冗談めかしたγの言葉が胸を深く抉る。この男は、本当に質が悪い。俺の気持ちを受け取る気はないのに、ハッキリと拒絶を示さない。いつも、やんわりと冗談混じりにかわすだけなのだ。

「…お前は本当に卑怯だっ…!!」

本気の拒絶を示してくれれば流石の俺だって諦める。…多分。俺を傷つけまいとするγの気遣いに、逆に傷ついている。そのことにγは気付いてくれない。

「…卑怯だっ…」

零れそうになる涙を堪えてぐっと拳を握り締める。ここで泣いたらまた餓鬼扱いされてしまうから。

「…ずるいのはお前の方だっつーのに」

大きな溜め息と共にγが立ち上がる音がした。びくり、と肩を強張らせた俺の頭をフワリと優しく撫でた後、γはあろうことか俺の事を抱き締めた。

「が…がん、ま?!」

しどろもどろになって、泣きそうだった事も忘れて慌てる俺に気付いてγは抱き締める腕を解いた。

「…変な顔」

ぷっ、と吹き出したγはそう言って爆笑し始めた。極限まで顔を赤くして、口をパクパクさせる俺の顔がγのツボに入ったようだった。

「泣き虫が治ってから出直すんだな」

収まらない笑いを押さえようともせず、γはまたもや俺に期待を抱かせるような台詞を吐く。そして後ろ手にひらひらと手を振って部屋を後にした。

「馬鹿γ…次こそ極限に振り向かせてやるからなっ!!」

姿を消したγにも聞こえるように大声で扉に向かって宣言した。俺の気持ち、受け取るまでは絶対に諦めんからな!!










「γ」

「…姫」

了平の宣戦布告を背中で聞きながら苦笑していると、目の前から姫がやってきた。

「どうしてγは了平さんのこと…好きなのに受け入れないの??」

「ひ、姫っ?!」

慌てた俺を見て姫がにこりと微笑む。まったく…姫には全てお見通しって訳か。分かっていて質問するとは、流石ボスの娘だ。いい性格をしている。

「…あいつは、この時代の人間じゃないから駄目なんだ」

俺だって、単刀直入なあいつのことを好いている。だが、俺達の間には十年という壁が立ちはだかっている。後何日もすればあいつらは元の時代に帰る。そうしたらこの時代に現れるのは、俺がメローネ基地で痛め付けた十年後のあいつだ。あんな仕打ちを受けておきながら俺の事を好きだなんて言う訳がねぇ。

「傷つけたくないんだ」

「傷つきたくないのはγでしょう??」

「…っ!!」

後数日の間、仮に了平と付き合ったとしても残るのは別れだけだ。そして、次に俺が見るは俺の事を憎む成長した了平。了平に至っては過去の俺と何の接点もない訳だから会う事すらないかもしれない。だから、俺は了平の気持ちを受け入れられない。だけど拒絶もできない。

「いつまで経ってもγは心配性ね」

くすりと笑って姫は俺に耳打ちした。

『私には全てが見えているわ』

それが明るい未来なのかどうかは姫は教えてくれなかった。だけど、優しく微笑む姫の顔から、悪い結果にはならないということだけは分かった。

「…次が勝負、ってか??」

「応援してるわ、γ」

勝利の女神の微笑みを受けて、俺は自分に気合いを入れた。…次こそ正々堂々勝負してやるよ、と。





End.

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