□君が強い訳
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僕が了平に唯一勝てないもの。
それが、酒。

「恭弥、大丈夫か??」

「…だいじょうぶ」

中学生の頃、無理矢理飲ませた時は僕の方が強かったのに。
一口飲んだだけで真っ赤になって、そのまま寝ちゃった可愛い了平はどこへ行っちゃったんだろう。
今じゃほとんどザルだ。
どんだけ飲ませたって意識を手放すことはないし、二日酔いにもならない。
いつも僕だけ酔っ払って…。
なんかムカつく。

「恭弥…もう止めとけ」

「りょーへー、うるさい」

「お前…呂律回ってないぞ」

「かみころーす」

「…恭弥」

もう、なんなの!!
了平ってばどんだけ飲んだら酔う訳?!
僕だって酔ってないんだから、そんなに心配しないでよ。

「よっ」

「え…、ちょ、何??降ろしてよ!!」

ひょいと了平がいきなり僕を抱き上げた。
逞しい腕に抱えられるのは嫌じゃない、けど!!

「りょーへー?!」

「これ以上は飲ません」

「なんでっ!!」

なんで了平にそんなこと決められなきゃいけない訳?!
了平だって僕だって全然酔ってないのに!!

「やだやだやだ、まだ足りない」

「やだ、じゃない」

「いーやーだ、たーりーなーい」

「…幼返りしとる時点で立派な酔っ払いだと気付かんか」

じたばた暴れる僕を気にした風もなく、了平は寝室へと向かった。

「…ばか」

布団に横たえられて僕は了平を睨む。

「そんな顔で睨んでも…」

そこまで言った後、ぐっと顔を近付けて了平は僕の耳元で囁いた。

「誘ってるようにしか見えんぞ」

「ばっ、ばかっ…!!」

ゾクゾクするような低音が耳に響く。
最中を思わせるようなその声に、身体が熱くなる。

「りょーへい…」

「ん??」

身体を起こして了平に抱き付く。
その声でもっと名前を呼んで。
その腕でぎゅっと抱き締めて。

「恭弥…」

了平は僕の気持ちを理解したのか、名前を呼んできつく抱き締めてくれた。

「恭弥、好きだ」

「僕もだよ、了平」

目が合って微笑む。
それが合図となって僕らは深い口付けを交わした。










「…いつからそんなに強くなったのさ」

「…何がだ??」

「酒」

情後の甘い空気の中、僕はかねてからの疑問を口にした。

「お前のせいだぞ、恭弥」

にこりと笑って了平は僕の髪を梳く。

「…僕が何したってゆーのさ」

心外なことを言われてムッとする。
了平は僕の髪を梳きながら、

「酒が入った恭弥は極限色っぽくなるからな、心配なのだ」

とはにかんで言った。

「…っ、何それっ…」

「俺が酔っ払ったら恭弥を落ち着いて見れんだろうからな」

「…ばか」

「酔った勢いなどで酷くしたくもない…と思っているうちにいつの間にか強くなっていたのだ」

そう言う了平の顔は悔しいくらいにかっこよくて。

「…別にそんな事気にしなくて良いのに」

実際了平はいつも優しすぎるくらいに優しくて、ちょっとくらい乱暴でもいいのに、と思わないこともない。
強引に奪われたい、なんて事は言わないけど、少しくらい…。

「…後悔するからやめておけ」

さっきまでにこにこしていた了平の顔がいきなり真面目になった。
…真面目な顔もかっこいいだなんて、思ってないよ。

「なんで」

「なんでもだ」

…ちょっとムカつく。
確かに僕は壊れ物に触るみたいな優しい扱いをされるのに慣れてるけど、そんなに体力がない訳じゃない。
了平が体力馬鹿なのは分かってるけど、見くびられる程じゃないとは自負してる。

「やってみなきゃ分かんないでしょ」

「…ダメだ」

「嫌」

「…ダメだ」

「じゃぁもう了平とはしない」

「…!!」

…そんなの僕が耐えれないけど。
1回くらいは了平に思い切り衝動をぶつけられたい。
それ程愛してるって教えて欲しい。

「…俺は、恭弥に嫌われたくないんだ」

ぷいとそっぽを向いていた僕に、弱々しい声が掛けられた。

「…確かに、恭弥をめちゃくちゃに抱いてやりたいという気持ちはあるのだが…」

そこまで言って了平は言葉を濁す。

「だけど、何??」

「それに恭弥が引いて…嫌われたら、と考えたら…」

優しくしかできない、と。
そっと了平の様子を伺うと、叱られた犬のような情けない顔をしていた。

「…僕の気持ちは、そんなに軽いものだと了平は思ってる訳??」

「…!!ち、違うっ、そーゆー訳ではなくてだな…!!」

「逆に僕は優しくされすぎて不安だよ。ホントは求められてないんじゃないかって」

「そんなことはない!!」

がばりと起き上がって了平はぐっと拳を握り締めた。

「なら、教えてよ…」

僕は誘うように了平の握り拳に自らの両手を添えた。
ごくり、と喉を鳴らして了平が言った。

「…いいんだな…??」

「もちろん」

了平の雄の顔。
その目で見られるだけでゾクゾクした。





もっと、もっと僕を求めて。
僕の全てを了平にあげるから、了平の全てを僕に頂戴。





夜はまだまだこれから。





End.

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