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□仕方ないじゃない!!
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「いくぜ了平、コラ!!」
「望むところだ、師匠!!」
師匠との日常茶飯事の取っ組み合い。
殴ったり殴られたり乗ったり乗られたり。
全ては極限トレーニング。
そのはずだったのに…
「了平の馬鹿!!!」
いきなり雲雀にトンファーで殴られた。
=仕方ないじゃない!!=
「もう!!信じらんない!!」
「そう怒るなよ、恭弥」
頬を膨らませてふて腐れる雲雀をあやしているのは、雲雀の師匠ディーノ。
「その気がある訳じゃないだろ??」
「知らないよ!!あの赤ん坊の事なんて!!」
「いやいや、了平の方だって」
「知らない!!」
「あんなに恭弥一筋なのにか??」
はっと雲雀が目を見開く。
そしてそのままバツが悪そうにディーノから目を逸らした。
「…だって、僕は素直じゃないし、あの赤ん坊と遊んでる方が了平楽しそうだし…」
「…恭弥、お前可愛いな」
「馬鹿にしないでくれる??」
「ちげーよっ!!…あっ、そーだ!!」
「…何??」
「いいこと思い付いたぜ、恭弥!!」
『いいこと』、と言ったディーノの顔はすごく輝いていた。
ディーノの考えに大抵名案などないことを知っている雲雀は少し悩んだが、聞くだけなら、と思い先を促した。
「俺と恭弥が仲良くすれば、了平も妬くんじゃないか??」
「…そんなにうまくいかないよ」
確かに珍しく名案…な気はした。
しかし、了平はヤキモチなんて妬くのだろうか。
もし了平が何も言わなかったら…それこそショックだ。
「大丈夫だって!!俺を信じろ!!」
にこっとディーノはお日様みたいな笑顔を向けてきた。
どうやら僕はこういった笑顔に弱いみたいだ…。
「失敗したら承知しないからね」
「分かってるって!!」
さぁ、行くぞ!!、そう言ってディーノは僕の腕を引っ張った。
「ちょっと!!…どこ行く訳??」
「どこって…了平の家」
「今から?!」
ありえない!!ついさっき了平を殴り倒して来たところなのに。
慌てる僕を気にもとめず、ディーノは車に乗り込んだ。
「あ、そうそう!!恭弥、俺が何しても攻撃するなよ??」
「なんで??」
「馬鹿…闘っちまったら、いつも通りと思うか交ざってくるかになるだろ??」
「…分かった」
ディーノにやられっぱなしになるのは癪だけれど今回ばかりは仕方無い。
攻撃しない、攻撃しない、攻撃しない…
念仏のように自分に言い聞かせた。
「…着いたぜ」
きゅっという音と共に車が了平の家の前で止められた。
呼び鈴を押すと、京子が出て、了平の部屋へと通された。
「…了平…っ?!」
部屋のドアを開けた瞬間、僕は絶句した。
…部屋の中央に座った了平と赤ん坊がキスしそうなくらいに近付いてた。
「おう、雲雀!!さっきは極限にびっくりだったぞ!!」
僕の姿を見た途端、了平はにかっと笑って立ち上がった。
そして…当たり前の様に肩に乗る赤ん坊。
「…」
「どーした、ひば…」
「触らないでっ!!」
ぱしっ、と乾いた音が響く。
僕は、頬に触れようとした了平の手を思い切りはねのけた。
「…雲雀??」
呆然としている了平の顔を見ていられなくて、僕は後ろにいたディーノにしがみついた。
「お、おい恭弥!!」
予想外の行動にディーノのは焦っていたけど、優しく背中を撫でてくれた。
なんで僕ばっかりこんなに苦しいの??
なんで了平は気付いてくれないの??
「…ばか…っ…」
じわりと涙が滲んできたから、ディーノの洋服にぎゅっと顔を押しつける。
…この香り、嫌いじゃないな。
ディーノのつけた香水の香りは、僕を落ち着かせた。
「恭弥、顔上げて??」
優しいディーノの声に誘われる様におずおずと顔を上げる。
ディーノは僕の頭をあったかい手で撫でた後、僕の額にキスをした。
「「…なっ!!」」
「恭弥、約束…な??」
驚愕する僕(と了平)に、ディーノはウインクしながら言った。
こーゆーのが似合うのは、イタリア人だからなのかなんなのか。
「約束…」
あぁ、何しても攻撃しないってやつね。
驚きでそんなことすっかり忘れてたよ。
今更何する気も起きないけど。
「…ひ、ばり…」
わなわなと身体を震わせながら了平が低く唸った。
それと同時に赤ん坊が口を開いた。
「…ディーノ、腹が減ったぜ、コラ!!」
「おっ、一緒に飯行くか??」
「美味い物食わせろ、コラ!!」
「よし、行くかー」
赤ん坊はぴょんと了平の肩からディーノの肩へと飛び移った。
「じゃぁまたな、恭弥、了平」
ひらりと手を振りながら、ディーノと赤ん坊は去っていった。
全く、なんなのあいつら。
今日はディーノにハンバーグ奢らせるつもりだったのに。
まぁ、別にいつでもいいんだけど。
「…ひ、ばり…」
あ、また呼ばれた。
なんなの、了平まで。
「お前はっ…!!お前は!!」
グイと引っ張られて床に押し倒される。
「ちょ、なんなの!!」
馬乗りになられて僕は若干焦った。
いつもみたいなムードなんて全くなくて…
「…了平、怒って、るの??」
ぎっと睨み付けるその目は、普段僕を見る目と全然違った。
「当たり前だろうっ!!」
「何に怒ってるのさ」
響く大声に少しだけ怯んだけど、僕はきっと了平を睨み返した。
「お前は!!いつもあいつと…ディーノとあんなことをしとるのかっ!!」
「…あんな、こと??」
「抱き締められたり、頭を撫でられたり…キスされたりだ!!」
もしかして…
もしかして…
もしかして…!!
「…了平、嫉妬、してる…??」
「当たり前だろうっ!!」
「…了平…」
「お前にいつもあんな風に触れてるのかと思うと気が狂いそうだ!!」
「…いつも、じゃない…」
「たまに、でもだ!!」
…嬉しい。
了平はそこまで僕の事…。
でも、それは僕も同じ。
「了平だって…いつもあの赤ん坊とベタベタしてるじゃない…」
「師匠か??あれはだな…」
「どーせトレーニングとか言うんでしょ」
「分かっておるではないか!!」
「さっきキスしようとしてたくせに」
「それは…」
了平は言い辛そうに言葉を濁した。
「…何??」
「…お前に殴られて腫れていた所がどうなったか見てもらっていただけだ」
「…僕のせい??」
僕が嫉妬して暴れたせいで、赤ん坊と了平を近付けたっていうの??
…僕、馬鹿じゃない??
「俺は師匠とそんなことをするつもりは微塵もないぞ」
「…僕だって…」
「…お前はキスされたではないか」
拗ねた様な口振りで了平は言った。
「了平にヤキモチ…妬かせたかった」
「それでお前はキスさせたのか??」
「それは違うっ!!」
そんなつもりは全くなかった。
「俺は、雲雀が攻撃しないで受け入れていたのがショックだった」
「受け入れた訳じゃない…!!ただ…約束してたから…」
「約束…??」
こくりと頷いて僕は続けた。
「ディーノにすぐ攻撃したら、了平にいつも通りだって思われるから、攻撃しちゃダメだって」
「…なるほど」
「まさか…キスされるなんて思ってなかった」
了平は俯いた僕の頭を撫でて言った。
「全部…俺のせいだったのだな」
「…違うよ」
「いや、極限に俺のせいだ!!雲雀を不安にさせてしまった!!」
がおぉと吠えて了平は立ち上がった。
「俺は今後雲雀を不安にさせん、と極限に誓うぞ!!」
「…了平」
赤ん坊に嫉妬していた自分が馬鹿みたい。
了平はこんなに僕を愛してくれてるのに。
大好きだよ、了平。
だけど、赤ん坊とひっつくのもほどほどにしてよね!!
End.
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