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□嵐の夜に
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魔法陣の前に立ち、
慣れた呪文をすらりと詠唱すれば陣は光、召還が成功したのだとわかる
「こんにちはさくまさん」
慣れ親しんだ悪魔の声
ペンギンのような柔らかいフォルムに安堵する
「こんにちはベルゼブブさん」
彼は相変わらずのように挨拶
こういう所が実に紳士らしい
「で、今日は何用ですかな?」
「あ、用ですか?…別に…これといってないんですけど」
「は?」
「あ」
失言と気付いたのか佐隈はえーっと、などと言葉を探しているようだ
まったく分かりやすい
「ほぉ…用もないのに喚んだんですか貴女は…このくそ女」
「あっあるにはあります!ちゃんとありますから」
「私を誰だと思ってるんですか、貴女ごとき、表情を見れば明らかですよ」
瞳を気持ち悪いぐらい細めて佐隈の顔を覗き込む
「……………そんな訳ないじゃないですか。」
「何ですかその間は」
呆れる。この女は一般とされるどの人間よりも致命的に嘘が下手だ
「そ、そんなことよりイケニエ!カレー用意してきますんで、ソファで寛いでてくれますか?」
「フム…まぁいいでしょう」
カレーという単語を耳にしてしまえば、頭よりも口が頷いていた
そう言えば佐隈はホッとした様子で下へと降りていった
「…まぁ扱いやすくていいんですけどね」
***
ビュォオオオオオ
ザァァアアアアアア
時刻は夕方のはずなのに空は鈍よりとしていて、人間界は夜のように染まっていた
「酷い雨ですねぇ」
ぶぶぶと羽音を立てて窓際で外を眺める
「台風が上陸しちゃったみたいなんですよ」
ベルゼブブの独り言に佐隈が後ろから応える
「カレーはどうしたんですか」
「今煮込んでますからちょっと待っててくださいね」
そう言ってソファに腰掛ける彼女
「そう言えば芥辺氏がいませんけど、主張ですかな」
「そうなんですよー私独りでお留守番で…雨は降るし暇だしで」
「なるほど」
私を喚んだのは話し相手、と言ったところか
……舐めてんのかこのビチグソ
「はぁ…暇なアルバイターを相手するほど、それ程私は安い立場じゃないんですけどねぇ」
嫌みたっぷりに言えば探してはギクリと肩を震わせる
「いや、そう言うわけじゃ…ごめんなさい」
何でわかったんだろうこの人…?
猿のように頭をかしげ、そんな風に考えているのだろうこの女は
馬鹿だ
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