■書庫U
□その執事、至難
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英国のはずれに佇む名門貴族・ファントムハイヴ家。
その当主は、シエル・ファントムハイヴ伯爵(齢14)という幼き子供。
そんな子供に仕える執事がこの私、「セバスチャン・ミカエリス(仮)」。
執事の仕事とは、頼まれた仕事ならば嫌な顔一つせず笑顔でやり終える。それこそが、立派な執事の有り方というものである。
けれど、そんな私にも笑顔で乗り切れないことも時にはあるわけで。
―――例えば、こんな時がそうである。
ある日、屋敷で貴族たちが集まる祝賀会(パーティー)が開かれることになった。
勿論、私たち執事・使用人はそのための準備をしなくてはいけない。
しかしそんな時、事件は起こった……
<メイリンの場合>
使用人たちを各々の仕事場に行かせ、私は屋敷の見回りをしていた。
現在4時。朝を迎えたばかりなのでまだまだ時間はある。
………はずだった。
「ギャ―――ッ!!」
「…?!何事です?」
声の聞こえる部屋に辿りつき、声をかけた。
彼女・メイリンとは、私がお使いする一家の家女中(ハウスメイド)である。いつも騒動を起こす人物で、一日一回以上は必ず何かやらかすのである。
返答がないので中を覗き込むと……言葉を失った。
「………何ですか、コレは」
部屋は…掃除前よりも酷くなっていた。(いつも見回りで把握しているので分かる)
何をしたのか、棚が倒れそうになって彼女がそれを必死に支えている。更に、部屋の奥を見遣ると花瓶が割れて水が零れてしまっていた。
「何故こんなことに?」
「掃除しようとして、入り口のドアで躓いて目の前にあったこの棚にぶつかって……」
「………」
成り行きは理解できたが……まず普通、ドアなどでは躓かないだろう。
彼女は眼鏡をかけているので視力が悪い事は承知しているが…一体何処まで悪いのか…。
いや、それ以前に……彼女に家女中(ハウスメイド)としての素質があるのか、うかがしいものだ。今まで何度このような失敗をしたか…彼女に注意深さという単語は存在していないのか?
それにしても、部屋を掃除する者が部屋を汚くしてどうするというのだろうか。
尤も、こんなことは日常茶飯事で、もっと酷い――部屋中のガラスが全て割られていた時など――時もあった。小さくため息をつく。これもいつものことだ。
「もういいですから、外に出ていなさい」
「は、はい!!」
それで事なきを得たのだが、災難は度重なってやってくるものであり………
続く...
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