■書庫U

□その執事、至難
1ページ/1ページ

英国のはずれに佇む名門貴族・ファントムハイヴ家。

その当主は、シエル・ファントムハイヴ伯爵(齢14)という幼き子供。


そんな子供に仕える執事がこの私、「セバスチャン・ミカエリス(仮)」。

執事の仕事とは、頼まれた仕事ならば嫌な顔一つせず笑顔でやり終える。それこそが、立派な執事の有り方というものである。

けれど、そんな私にも笑顔で乗り切れないことも時にはあるわけで。

―――例えば、こんな時がそうである。



ある日、屋敷で貴族たちが集まる祝賀会(パーティー)が開かれることになった。
勿論、私たち執事・使用人はそのための準備をしなくてはいけない。

しかしそんな時、事件は起こった……

<メイリンの場合>

使用人たちを各々の仕事場に行かせ、私は屋敷の見回りをしていた。

現在4時。朝を迎えたばかりなのでまだまだ時間はある。

………はずだった。


「ギャ―――ッ!!」
「…?!何事です?」

声の聞こえる部屋に辿りつき、声をかけた。

彼女・メイリンとは、私がお使いする一家の家女中(ハウスメイド)である。いつも騒動を起こす人物で、一日一回以上は必ず何かやらかすのである。

返答がないので中を覗き込むと……言葉を失った。

「………何ですか、コレは」

部屋は…掃除前よりも酷くなっていた。(いつも見回りで把握しているので分かる)

何をしたのか、棚が倒れそうになって彼女がそれを必死に支えている。更に、部屋の奥を見遣ると花瓶が割れて水が零れてしまっていた。

「何故こんなことに?」
「掃除しようとして、入り口のドアで躓いて目の前にあったこの棚にぶつかって……」
「………」

成り行きは理解できたが……まず普通、ドアなどでは躓かないだろう。

彼女は眼鏡をかけているので視力が悪い事は承知しているが…一体何処まで悪いのか…。

いや、それ以前に……彼女に家女中(ハウスメイド)としての素質があるのか、うかがしいものだ。今まで何度このような失敗をしたか…彼女に注意深さという単語は存在していないのか?

それにしても、部屋を掃除する者が部屋を汚くしてどうするというのだろうか。

尤も、こんなことは日常茶飯事で、もっと酷い――部屋中のガラスが全て割られていた時など――時もあった。小さくため息をつく。これもいつものことだ。

「もういいですから、外に出ていなさい」
「は、はい!!」

それで事なきを得たのだが、災難は度重なってやってくるものであり………



続く...

[書庫TOPに戻る]
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ