■書庫T

□もう、何も…
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日が差し込み、とても明るく見える『森』。森は樹木が沢山立ち並び、自然が多い所。オレが唯一、心安らげる場所でもある。


しかし、心では違うことを考えている。今まで大好きだった森だけど、今は違う。『一番』が出来たから。

「そうだ、イタチ兄ちゃんに何かあげるやつ…何かないかな」

気が付くといつも、イタチ兄ちゃんのことばかり考えている。『親』という感じではない。しかし、『兄弟』という感じでもない。

―――じゃあ、何なの?

そう思っても、答えは見つからない。いつも自問で終わる。相手はいるけれど………

いや、本人に聞くのはどうなんだろう。おかしくはないだろうか。それ以前にちゃんと話を聞いてくれるかな?



―――そんな時だった。後ろから肩を“ポン”と叩かれたのは。


「っ?!」

今まで自分一人だけだと思っていたから、吃驚して振り返った。内心では『もしかしたらイタチ兄ちゃんかも』と胸が高鳴る。


―――しかし、その予想は大きく外れた。

里の大人でなかった事は救いだった。肩を叩いたのは、自分と同い年に見える子供。その後ろには子供が何人かいるようだ。勿論、全員初めて見る顔。一瞬、何かされるんじゃないかと身構える。


「ねぇねぇ、一緒に遊ぼうよ!」
「うん、いいね。人数多い方が良いし!」

「…へ?」

少しだけ、気が抜けた。そして相手の言葉を頭の中で繰り返し、理解する。


…誘ってくれてる?一緒に遊んでも良いの?


誘われるなんて、今まで無かったかもしれない。自分から、友達を作るために誘ったことしかなかったから。それを思い出したら少し気分が悪くなった。しかし自分が誘われたんだと思い出すと、不思議と気分は楽になった。


だから。何も考えず、少しも躊躇わず、すぐに答えを出した。

「いいよ!」





森の奥に更に進んで行く。子供たちはオレの前を行く。オレは子供たちについて行く。

オレは期待に胸を膨らませていた。何をするのか、普通の子供はどういう遊びをするのか、とても興味があった。一緒に遊べるなら、何だって良いとさえ思った。

「此処で良いかな…」

先頭の子がふとそう言って立ち止まった。それに合わせるように、みんなも立ち止まる。

何を言い出すのかと息を呑む。

「よし! “かくれんぼ”しよう!」

威勢良く叫ばれた言葉。

“かくれんぼ”…今までずっとやりたかった遊び。でも相手がいなくて、することが出来なかった。その記憶がフラッシュバックして、そしてすぐに消える。

―――もう違うんだ。今は、ちゃんと相手がいる。みんなと遊ぶことが出来る。

それが、とても素晴らしいことのように思えた。
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