■書庫T
□唯一の未練
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いつもの朝が来た。しかし今日は雲行きが怪しい。何だか嫌な気分だ―――…
イタチは昨日までの長期任務のせいで家には来ていない。つまり、今日一日は一人だ。
最近はイタチと居るせいか、里からの嫌がらせを受けていない。
「それでもまだ安心は出来んじゃろう。明日は家に居なさい」
じっちゃんから昨日そう言われた。心配しての言葉なのは分かったけど、やっぱり退屈。一人では遊びもできない。
『イタチに会いたいな…』
でも、休んでいるかもしれない。それじゃあ迷惑が掛かるかも―――……
…なら今日くらい、大人しく一日が過ぎるのを待とう。
そう思った時、“こんこん”とノック音がした。
「…?」
誰だろう?もしかして、イタチ…?
この家のドアには覗き穴がないので相手が分からない。鍵を開けて“がちゃり”と扉を開けると―――…誰も居なかった。
「誰―――…むぐっ!」
言い掛けた言葉は、繋がらなかった。口を塞がれ、声さえ出すことが出来ない。問答無用とでも言うように首を掴まれ、引き摺られる。
痛い―――!!
そんな心の声も虚しく、部屋の中心まで連れていかれ…その後は、暴力の嵐。
「あの暗部がいないとなれば、やれるってもんだぜ!」
「ああ!今まで待った甲斐があったな!!」
如何にも満悦そうに嘲笑する里人。
イ、イタチ―――…助け…
「ナルト!!」
「っ?!」
涙目が捉えたのは、会いたいと願った人。傷だらけの体でも引き摺り、手を伸ばす。
初めて見た、息を切らしたイタチ。
走ってきてくれたの?こんなオレの為に?
傷だらけの俺のために―――…
この時ばかりは里人の前であっても涙が溢れて止まらなかった。何より欲しかった温もりは―――…ずっと傍にあったのだと、知ったから。
「イタチ……ど…して…?」
涙声が邪魔をして上手く喋れない。
怒りが滾り、傷を受けて痛々しいナルトの体。見ていると更に怒りが湧き上がる。
「これ以上、見過ごすわけにはいかない…ナルト、逃げろ」
勝つ自信がないわけではない。ただ、ナルトに見せるのは駄目だと、それだけは避けたいと思った。
少し驚いたナルトだったが、素直に聞いてくれたことに感謝する。ナルトが扉を開いて出て行くのを見届け、すぐに感情を露にする。
“殺す”
今まで何度も人を殺すことはしてきた。しかし、今回は違う。
感情がある。
この殺意は相手を怯えさせるもの…勿論、逃がす気はない。
一掃する。
すぐにでも殺してやりたかったが、一人の男が口を開いた。
「ちょっ…ちょっと待ってくれ!!俺たちは雇われただけだ!!」
「…」
無言は肯定の意。普通なら一網打尽にしている所だが、何故だか聞いておかなければならない気がした。
「お、お前の……うちは一族にだ!!」
「……!!」
何だと…では父上が―――…ナルトを…。
この感情を言葉に表すことは、きっと不可能だろう。
煮え滾る怒りと失望。
父上までもがナルトを…
もう、目の前が真っ暗になった…
気づいたら、目の前には赤い血が飛び散っていた。しかし、“悪いことをした”という気はしない。
部屋に広がる赤い血と死体。しかしまだ怒りは収まらない…
知らず、足は生まれ育った家へと向かっていた―――…