■書庫U

□紡想曲
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「はぁ…」

 気付けば溜め息。考えを明るくしようとするがなかなか上手くいかない。せっかく一人になれたのに、これでは何も変わらない。

「やっぱり俺は何も…」

 その時、考えに耽っていた所為か、後ろから来る人物に気付かなかった。

「何も、何だ?」
「へっ?…びゃ、白哉?!何で…?!」

 随分な予想以上の反応で、思わず笑みが零れる。難しい顔をして何かを考えていたようだったが、もうその顔は何処にもない。

「ルキアが、兄に“有難う”と伝えて欲しいと頼まれたのだ」
「ルキアが…?どうして…」
「あの時兄が助けていなければ、今生きているルキアはいない」
「………」

 違う、と一護は反芻した。俺は何も護れていない。多くの犠牲を払った。俺は…本当に護れていたのか?本当に護れたのは、何だったのか?

「……違う」
「…?」

 一瞬、一護が何を言ったのか分からなかった。あまりに声が小さい所為で、聞き取れなかった。いや、わざと小さくしているのか…それは分からない。

「俺は何も護れちゃいない…仲間を沢山傷付けて、なのに何も……。それに、ルキアを護ったのは、白哉だ。俺じゃない」
「………」

 本当は、こんな事を言いたいわけじゃなかった。自分を悲観したいわけじゃない。白哉を困らせるようなことも言いたくなかったのに…

 なのに、白哉の前に立つと自分の脆さが嫌でも分かってしまう。

「ルキアの言っている礼は、そういう意味ではない」

 ふと、白哉が口を開いた。それに気付いた一護は、咄嗟に顔を上げた。その顔には少しだけ戸惑いがあった。
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