■書庫T

□一人じゃない
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オレが今この湖にいるのは、受けた傷を癒すため。オレは回復が早いから、菌を洗う程度しかしないんだけど……。

「傷…もう少しで治るかな…」


その治るスピードは普通では考えられない。しかし、この時のナルトがそれを分かるはずも無かった。誰も教えてくれる人がいないから。


「そうだ!」

ふと思い出して取り出したのは“包帯”。使われた跡が見られないから、新品だと分かる。

「じっちゃんがくれたんだっけ…」

そうして自分の腕に巻いていく。



―――…だが。


「………あれ?」

巻き方が……分からない。そういえば、やり方教えてもらってないや……。

「どうしよ…」

使い方が分からなくちゃ意味ないよ…心の中でぼやいたが、それでどうにかなる訳でもなく。


「―――痛っ!」

その時、夜の冷たい風が傷に当たって沁みた。包帯越しにズキズキと痛む傷を見る。

あぁ…もういいから適当に巻いておこう。じっちゃんがくれた物だし、少しはマシになるよね……?

小さな期待を抱きながら、再び包帯を巻いていく。一度、包帯が傷に当たって痛みが増した。

だけど我慢して、耐えた。


我慢して我慢して、それでなくては自分を保てなくなると思ったから。





傷の手当てが終わった頃、湖の水面には丸い月が浮かんでいた。

「わぁ……月ってこんなに大きかったっけ…」

久し振りに見上げた夜空には、月だけがぼうっと浮かんでいる。だから、月がいつもより大きな存在のように見えた。

月明かりだけがオレを見てくれてるような気がした。



―――と、その時。


ポチャン…

湖をはさんだ向こう側から水の音が微かに聞こえた。
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