■書庫T
□一人じゃない
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「っ?!」
まさか…人?此処ではオレに危害を加えようとする人たちしか見た事が無い。だからなのか、体は無意識に強張って、びくともしなかった。
意識は、目の前にいるであろう人物にだけ向いていた。もしかしたら、また…と気分は落ち込むばかり。
『このっ、動けってば……っ!!!』
傷を更に増やさないために、逃げなきゃ駄目だ。心の中で無我夢中で叫ぶと、ようやく足が動いた。
『やったっ…………あっ』
しかし、喜びは束の間。次の瞬間には、浮かれた自分を悔やむ事態が起こってしまう。
ドン!!!
急に足を動かしたからか、体がついていかず…転んでしまった。
「うぅ…」
オレってホントにドジ…
「…大丈夫か?」
「!!!」
急に上から声が降ってきたから吃驚した。相手の手が見えた。白くて、細い腕…
『あれ、この人、オレを立ち上がらせてくれようとしてるってば…?でも…このオレに声を掛けてくるなんて……』
その瞬間、悟った。
『…そっか…オレの顔、見てないから…気付いてないだけだってばね…』
それなら優しくしなくていいのに。無視して通り過ぎてくれればいいのに。
顔はあげずに、地面だけを見つめる。孤独感だけがこみ上げてきた。
オレは何も答えない。
『オレだって分かったら、どうせまた殴るんだろ?…蹴るんだろ?』
オレだってそう馬鹿じゃない…。
増えるのは傷だけじゃないから。
ふぅ…と相手のため息が聞こえた。
『…な、何だってば…この人…?』
相手の顔を見ていないので分からないけど、明らかに大人ではない…と思う。それに、大人だったらすぐオレだって気付くだろうし。それでもオレよりは年上なんだろうけど…そんなには離れてないと思う。
「此処で何をしていた?」
「…」
こっちが聞きたいんだけど…という言葉は出さず、無言。沈黙だけがある。
「君のことを、三代目から頼まれた」
「えっ……?!」
三代目――オレがじっちゃんと呼んでいる人。
里の火影、つまり里一番の強い忍者と言われている。
何でじっちゃんが………
それに―――………
「オレに、監視役なんていらない」
「………」
そう、オレにはいらない―――。
今まで何度か、じっちゃんがオレのために監視役を付けてきたことがあった。でも、その人たちはみんなオレを痛みつけるために来ているようなものだった。
もう、あんな苦しみを味わいたくない。
だから―――
「オレに監視役なんて―――……っ!!」
“いらない”という言葉は、声にならなかった。
一瞬、何が起きたのかが理解できなくて、言葉を失ったからだった。
まだ顔すら見ていない目の前の人が、オレを抱きしめていた………。