■書庫T
□一人じゃない
1ページ/5ページ
辺りは静まり返り、人の気配は無い。空は冷たい風を靡かせ、里を覆っている。
ここは、里が一望出来る場所、森。
里には街灯の明かりしか見えない。きっと、子供も大人も寝静まっているのだろう。
更に森の奥には、小さな『湖』がある。
近寄る者など数える程しかない場所。湖しかないこの場所に来る者の方が不思議がられる程である。
そんな場所に、小さな少年がいた。辺りは暗闇に染まっていて、月明かりで足元が見える程度の明るさしかない。しかし、この少年の金色の髪だけはそれに溶け込んではいなかった。
それは、暗闇に発光する蛍のような……輝き。
この少年、名はナルトといった。
今日も…また蹴られ殴られ罵られた。今まで何度もそれは繰り返されてきた。
慣れても、痛いものは痛い。大人たちは躊躇という言葉を知らないんじゃないかと思う。手加減は微塵にも感じられない。
こうなると本当に、自分の存在理由さえも分からなくなってくる。この湖で一人、泣き喚くことが出来たら、どんなに楽になれるだろう?
『お前さぁ、何でそうのうのうと生きてんだよ!』
そんなの、オレが聞きたい。
『お前なんて、誰にも必要とされてねェーんだよ!!!』
そんなこと――――…
オレが一番良く知ってる。
『死んじゃえ』
………もう、ヤダよ………
もう慣れたと思っていたのに………こんなにも、胸が痛む。
誰にも認められないのは苦しい。どんなに望んでも、得られない幸せ。
―――ううん、違う。
………幸せって、何だっけ?
湖の水面に映る自分の顔は、何となく情けなく見えた。