■書庫T
□純愛
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イタチに初めて会ったときのこと、凄く覚えてる。
あの時のオレは誰も信じていなかったから、イタチがオレに近付こうとしたとき、無意識に、アンタを突き放してたんだ。
一瞬アンタは驚いたようだったけど、それでも変わらず話しかけてきて、オレ以上に変なヤツだと思った。
ある時アンタが女の人に絡まれて、寄り添っている所を見たとき、何故だか胸がチク、と痛んだ。
こんな気持ちになるなら、アンタから離れようとしても、アンタは変わらずついて来て、オレの気持ちを知らずについて来て、オレは言ったんだ。
「アンタといると胸がはりさけそうだ」
知らずのうち、涙が地面に音もなく落ちた。そんなオレを見てアンタは、
「すまない」
と一言告げて、立ち去ってしまった。その方が楽なはずだったのに、涙は溢れ続けた。
何日間か、アンタに会うことはなかった。再び会ったのは、それから一週間経ったころ。アンタは出来るだけオレを避けているようだった。勿論、オレがそう仕向けたのに、胸は未だに痛かった。
近付くアンタをオレは自分から突き放した。なのに、これじゃまるでオレが恋しいみたいじゃないか。それに気付いたのは、アンタが告白されている場面に出くわしたときだった。
「私、貴方がずっと好きでした!!付き合って下さい!!」
「………好きな子がいるので、すみませんが」
女性も結構美人に見えた。けれどアンタはそれを受け流して、振った。
―――“好きな子”。
また、胸がチク、とした。
そのとき、ふと思った。
(あれ?どうしてオレはイタチの言葉にこんなにも一喜一憂してるんだろう?自分から突き放した人を今でも何でこんなに気にしているんだろう?)
おかしい………。何で…どうして……?
はっとして見回すと、イタチが不安そうにこちらを見ていた。急に視界に入ってきたからびっくりして、視線を逸らした。それを見たイタチも、ふいと視線を逸らし、歩き出した。
何故だか、またチク、と胸が痛んだ。そして、頭より先に足が動いた。
「…っ?!」
オレがイタチの服の裾を引っ掴んだことに、イタチは少しばかり驚いたようだった。
「……イタチ…」
「………」
そう呟くとイタチはそっと俺を抱きしめた。壊れ物を扱うように、とても丁寧に。そのとき、自分の気持ちにようやく気付いた。
“好き”
それを伝えると、イタチは微笑んで
「俺もだ」
と、言ってくれた。何でこんな簡単なことに気付かなかったんだろう。
イタチはこんなオレを見放さないで、ずっと、気遣ってくれていたんだろうと思う。それが、とても嬉しかった。
オレにも大切な人がいると、実感できたから。
Fin.
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