LONG+B
□あいうた
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「つー事だから、もう俺達は終わりだ。じゃあな」
くるりと恋次に背を向けて今来た道を戻る。
「一護っ!!嘘だろ、全部?悪い冗談はよせ。お前が…お前がそんな事言うワケねぇ!言ったじゃねぇか。好きだって、愛してるって、ずっと傍にいたいって…そう、言ったじゃねぇかよ!!」
恋次の叫びに、思わず一護の足が止まってしまった。
(そんな事、言うなよ……)
そんなに、俺を見ないで。
縋るような純粋な瞳で、俺を見ないで。
背中に向けられる視線が苦しい。
「アンタのそう言うところ、大嫌いだ」
「ッ…!」
これだけはしたくないと思っていたけれど、恋次を引き離す事は出来そうにないから、一護はもう一度恋次にとって酷い言葉をぶつける。
「ああ、忘れてた。コレ、もういらねぇから捨ててもいいよな?」
ちゃり…と一護が首から外したものに、恋次の目が吸い寄せられるように止まった。
チェーンに通された赤い石が付いた指輪。
恋次も同じものをしていた。橙の石の、それはお揃い。
決して高価なものではないけれど、現世でデートした時に二人で選んで買ったもの。
二人にとって互いの次に大切なものである筈だ。
一護はそれを弄ぶように左右に振ってみせてから握りしめ、何の戸惑いもなく投げた。
瞬きする暇もなく曲線を描いて塀を飛び越え、ザッと植木の林の中に消えた。
「コレで何もなくなった、俺とお前との繋がりは。恋次もさっさと捨てろよ」
何も言わない恋次を置いて一護は再び歩き出す。
最後に、恋次に視線を向ける事など出来なかった。
――だってもう、瞳を交わすことすら赦されない。
それだけ俺は残酷な事をした。
傷付けた、恋次を。
もう、隣に立つ事も背中を預けて戦う事さえ叶わない。
「……ちご………いちご、行くな。一護ぉっ!!」
木霊する自分の名前。
聴きたくない。
振り返ってしまいそうになるから。
その暖かい腕の中に戻りたいと願ってしまうから。
一護は心を整えるように一度目を瞑った。微かに震える瞼。
唇は、噛んで血が滲んでしまった。
(まだ、駄目だ。泣くな、俺)
そう、自分に言い聞かせて、足を止めずに一定の速さを保って歩き続ける。
その先に待ってるのは何なのか。
そんなの決まってる。何もない。
孤独と空虚だ。
それでもこれが、彼の為なら、道を迷わない。
闇への道をただ目指してひたすらに歩き続ける。
最後に聴いた恋次の声は、涙混じっていた。
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