LONG+B
□あいうた
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「っ、はぁ…はぁ……」
恋次が追って来ない事を確認した一護は、瞬歩を使って先程指輪が落ちた場所まで戻った。
木が太陽の光を拒んで、その下は仄暗い。
視界が悪い林の中で膝をつき必死に探すのは、自分で投げ捨てた恋次とお揃いの指輪。
手も死覇装も土まみれになるのも気にせず草を掻き分けた。時には木に引っ掛かってないか顔を上げて。
始めてどれだけ経ったのか解らないが、爪は割れて血が滲み出し、草で切ったのか腕に幾つもの切り傷が出来ていた。
それでも手は一切緩めず、汗を拭う時間すら惜しい程に探した。
霊圧は恋次にも誰にも気付かれないように抑えていた。
慣れないそれに疲労が重なる。
一刻も早く指輪を探し出したかった。
あれは、唯一の形だから、どうしても手元に残しておきたかった。
恋次に酷い事を言っておきながら、自分から一方的に別れを告げておきながら、何もいらないと覚悟していながら、これだけはどうしても手離せなかった。
言葉と想いと行動が一致していないと解ってはいるけれど。
「あ、あった……」
そうして数時間、漸く探し出した頃には、もともと夕暮れ時だった太陽は完全に沈み切り、代わりに月が真上に昇っていた。
「よかった、よかったぁ……」
一護は、それを大事そうに震える手で拾い上げ手の中に収めると、胸の前で抱き締めた。
手も足も痛み、精神的にもボロボロの一護であったが、その痛みさえも忘れて感じない。
ただ、再びこの手に指輪が戻ってきた事が嬉しい。
泣きそうになるのをまた堪えた。
ここで、尸魂界で泣くのは駄目だ。
これはけじめ。もう二度と踏む事はないだろう死後の世界への。
ここで全てを投げ出して泣いてしまったら、弱い自分はきっと恋次に縋ってしまう。
決意も覚悟も何もかもが無駄になってしまう。
世界を隔てた自分の居場所へと戻るまではせめて、一滴の雫さえも零しはしない。
なんとか足を動かして立ち、引き摺るように歩く。
いつも恋次と歩けばあっという間に着いてしまう歩き慣れた穿界門までの道程が今はひどく遠い。
そのうちに雨が降り出してきた。
探している間に降らなくて良かった、なんて思う余裕もない。
何度か倒れそうになりながらも辿り着いた穿界門の前で、一護はそこで初めて一度だけ後ろを振り向いた。
ぎゅっと指輪を握っている手に力がこもる。
そして、呟きにも似た声の小ささで言う。
「さよなら、恋次…大好きだったよ。愛していたよ。…幸せ、だったよ……」
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