LONG+B
□空色 〜黒〜
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しかし、一護がグリムジョーの名を口にする事は滅多になかった。
今もアイツと呼び、名は決して言わない。
それを何故と問うつもりはなかった。
一護の事だ。
名を呼ぶ事でグリムジョーに捕らわれてしまうのを恐れているのだ、とウルキオラは思っていた。
時たまその名を呼ぶ声はいつも、空の遥か彼方を見ながら微笑んでいるか…姿を望んでいるように震えているか、だったから。
ウルキオラを見向きもせずに、一護は先を歩いて行く。
すたすたと歩いて次に止まったのは、先程とそれ程変わらない場所だった。
異なるのは緑が多い事くらいで、道に面した家の庭には、綺麗に手入れが行き届いた花が溢れんばかりに咲いていた。
「もうすぐ、向日葵が咲きそうだな」
一護が見つめる先はまだ蕾の状態。
恐らくそう言う種類なのだろう、向日葵にしては幾分も小さかった。
「去年の誕生日にアイツがくれたんだ、この向日葵。小さいけど綺麗なんだぜ。勝手に取っちゃったんだけどな」
グリムジョーが花をプレゼント。
あの強面で花なんて、とは思ったウルキオラではあるが、まだ施設にいる時には良く“彼女”に花言葉を教えられていた事を思い出した。
似合わないがグリムジョーは自分より花には詳しかった。
「花言葉は、聞かなかったのか?」
「家に帰って遊子に聞いた。確か“憧れ”とか“貴方をみつめる”だったと思う」
「グリムジョーには?」
「アイツがそんなもの知ってる筈がねぇだろ?」
どうやら一護はグリムジョーの過去をあまり知らないらしい。
ひょっとしたら“彼女”の事も聞いてないのだろうか。
グリムジョーに生きる事を教えた人。
少しくらいは話しているとは思うが…。
不思議そうにしている一護に向かい、ウルキオラは答えた。
「いや、知っているぞ。施設の教員に教えられていたからな」
一護の表情が一瞬固まった。
目を瞬きさせて、驚いているのか茫然としていたかと思うと、次には頬を薄っすらと染めた。
「そっかぁ…知ってたのか。知ってて向日葵くれたのかな」
その時の事を思い出したのか、グリムジョーが飾ってくれた左耳に手を掛けてくすぐったそうに笑った。