LONG+B
□空色 〜橙〜
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「その橙の頭…見ねぇヤツだな。一年か?」
「…だったら何だって云うんだよ?」
一護はグリムジョーを睨み返した。不機嫌そうに寄せられていた眉間の皺がまた深くなる。
「生意気そうなツラしてやがるぜ。俺は丁度虫の居所が悪ぃんだよ。相手しな!」
そう云って殴り掛かってくるグリムジョーの初撃を躱して、逆に攻撃を繰り出すが一護のその攻撃も当たることはなかった。
「ちょっとはやるようだな。楽しめそうだぜ!」
「上等だ!後で吠え面かくなよ!!」
売られた喧嘩は買ってしまうのが一護の性格。
直ぐ様殴り合いの喧嘩が始った。
「っはぁ、はぁ…くそっ!」
一護は口許の血を袖で乱暴に拭った。顔には痣が幾つも出来て、血が滲んでいる。
しかし眼光は弱まるどころか強くなる一方だ。
グリムジョーはその鋭い眼差しから眼を離さず、口の中の血を吐き出した。
グリムジョーも一護と同じ様に痣をつくり、血を滲ませている。
二人の力は同等だった。
どちらもその場に立っているのがやっとのようで、肩で息をしている。
「お前、名前は?」
「……黒崎、黒崎一護だ」
「黒崎、一護か……。今日はもう充分楽しんだ。また次相手頼むぜ?」
そう云って背を向けるグリムジョーを、一護は無言で見送った。
本当は「逃げんのか!?」とか云いたい事はいっぱいあったのだけれど、一護は声を発する事が出来なかった。
何故なら、グリムジョーが背を向ける瞬間、僅かに見せた表情が一護の動きを奪ったから。
一瞬だったが確かにグリムジョーは笑っていた。
それも先程までの見下したような笑いではなく、嬉しそうな楽しそうな笑顔で。
男に対して使うのも変だと思いつつも、それがあまりにも綺麗で。
思わず魅入られた事にも気付かず、一護は浅葱色が見えなくなるまで、その場に茫然と立っていた。
「…何なんだよ、アイツ……」
呟いた言葉は誰にも届く事なく消える。
藍色に染まり出した空には星が光を放っていた。
これがグリムジョーとの出会い。
一夏の恋の始り。
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