小説
□白い記憶
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あれは仕方なかった
俺の正義を貫くためにはあれしか方法はなかったんだ。
非道い焦燥感に襲われながら同じ言葉が頭の中をループする。
俺は勝ったんだ
俺が正しいという事が証明できたんだ、
なのに
なのに
白い包帯だらけで、白い病室の中で、白いシーツに包まれている、病的な程真っ白な菊を目にしたとき俺の中の何かが揺らいだ。
『おや、アルフレッドくん
来てくれたのですか
和菓子で良かったらありますよ』
君から見たら悪いのは、俺なのに
俺がこんなに傷つけたのに
つい最近まで敵同士だったのに
なんで、そんな
優しい、笑みを
「アルフレッドくん、お疲れ様です」
世界会議のあと、会場に設置してある自動販売機の前で菊が軽く会釈をした。
(正直会釈という文化にはまだ馴れないので少し驚いた)
「やぁ、菊」
俺も笑顔で返事を返し、菊が手に持っているものを指差す。
「君は何を飲んでいるんだい?」
「緑茶です。
グリーンティーですよ」
「えぇー、あれかい?
俺は苦いから苦手だなぁ」
「フフ、そこが美味しいんですよ。
アルフレッドくんも何か飲みますか?」
菊は懐から取り出した小銭を迷い無く自動販売機に入れるとニッコリ笑った。
でもそれは少し悪いと思い、自分のポケットを探ってみたが、そんなのは自分らしくないなと思い直し素直におごってもらうことにした。
「ちぇ、シェイクは売ってないんだね」
「えぇ普通は売ってないでしょう」
「それじゃあコーラでいいよ」
ガタンと音を立て、ジュースの缶が転がり落ちてきた。
菊はさりげなくそれを取ると俺に手渡す。
「そういえばアルフレッドくん、貴方のつくった新作映画見ましたよ!
さすがですね、大迫力でした!」
とても嬉しそうな笑顔。俺より遥かに年上のくせにパタパタと手を上下に振り、うっとりとしている。
「私の家の人たちも喜んでいました
ありがとうございます!
私、アルフレッドさんの豪快な作品好きですよ」
「──、菊」
突然、あの時の記憶が鮮明に蘇った。
今と変わらぬ優しい優しい彼の姿。
「君は僕が好きかい?」
「・・・は、」
突然の言葉に彼は首を傾げる。
俺の質問の真意を掴み損ねているのだろう。
白い包帯
白い病室
白い腕
白い肌
赤く滲んだソレが
小さく華奢な彼にはよりいっそう痛々しく見えて
「君は僕を憎んでいるんだろう?」
俺、は何を言ってるんだ
菊の目が俺を見つめる。
「・・いえ、別に結構好きですが?」
そして、屈託のない
それはとても純粋な。
俺の瞳から、思わず涙が零れ落ちた。
「ありがとう、俺も好きだよ、菊のこと」
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アルフレッド は よめる 空気 を 手に入れた_ ▽