小説
□舞い散る薄紅
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桜の樹が川沿いに何本も何本も堂々と並んで立っている。
まるで空から降ってくるように舞い散る薄紅は
息を飲むくらいに美しい光景だった。
さぁ、と緩やかに春風が頬を掠める度に枝はざわざわと心地の良い音を立て
その身に纏った花びらを惜しげもなく散らしてゆく。
それを写真におさめようとカメラを握りしめたが、レンズの向こうに映る景色はあまりにも無機質で、そもそもこの神秘的な自然を一つの絵にしてしまう行為が無粋なのかもしれない。
そんな愚にもつかぬ事を一頻り考え、
(そういえば自分にカメラの腕はなかったのだった)
と無機質な美の訳に思い至ったがそれは見ないふりをしておいた。
「君の家は綺麗だね」
まるで絵画の中にいるようだよ、と隣で一緒に桜を仰いでいた菊に告げると少し照れた様に口元を裾で隠し、笑った。
「えぇ、風流でしょう?」
今までは粋だの風流だのという言葉は理解していなかったが
その意味が少しだけ分かった気がする。
「本当に、綺麗だよ」
突風が吹いた。
桜の吹雪があたりの世界を包む。
ほんのりとピンク色の視界が、何となく愛おしく感じた。
「菊、ありがとう」
「おや、今回はばかに素直ですね」
「君までそんな棘があるセリフを言わなくても良いだろう?」
「ふふ、冗談です
さあ家に戻りましょうかアルフレッドくん
君のリクエストに答えて団子を用意してありますよ」
からん、と下駄の音が軽快に鳴る。
自分は革靴をはいていたけれど、調子外れな下駄に合わせて一つ軽快にステップでも踏んでやろうかと思った。
きっとまた菊はそれを微妙な笑顔で見守ってくれるだろう。
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季節はずれなのに風流も何もあったもんじゃないw