小説

□八橋の中身
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「ルートさん、今夜はそちらにお伺いしてもよろしいでしょうか?」



艶やかな黒髪を携えた少年の様な姿をした青年(?)
本田菊が、静かな口調でそう言うとそっと己がルートと呼んだ青年を見上げた


「ヴェ?ルート今日は菊と一緒に寝るの?」


そんな2人の真ん中で、パスタを頬張っていたフェリシアーノが頭に疑問符を浮かべた。


「うむ・・菊、どうかしたのか?」


菊に小さく洋服の裾を引っ張られているルートは少し困ったように菊を見つめた。


「実は・・今日アルフレッドさんとホラー映画を見たんですけど・・」

「珍しいねぇ、そんなに怖かったのー?」

「いや・・、あの・・
アルフレッドさんが怖がって私の家に泊まろうとしてて非常に鬱陶しいんですよ」

「あぁ・・」


憂鬱そうにため息をついた菊にルートは納得したように頷く。


「だから、ルートさんのお宅にお邪魔してよろしいですか?」


どんぐりの様な瞳が真っ直ぐにルートを見つめるその目線には微かな希望を秘めているようだった。

「ま、まぁ、部屋は空いてるから構わないが」

「・・・ルートさん」


菊はルートの裾を引っ張る力を少し強めた。


「私は1人、ですか?」

「っ・・・」

「一緒に眠って、ほしいです・・」


ポツリ、となんとも寂しげに呟く。
らしくない菊のセリフにルートの頬は一瞬にして赤く染まった。


「そ、それはっ・・」


「もう、ここまで言わなきゃ分からないのですか?」

背伸びをした菊。
条件反射のようにルートも背を屈める。


耳元に暖かい吐息。
囁かれたのは



「今夜は抱いてください、と言っているのです」




むせかえるくらいの甘露の言葉。





さっと恥ずかしげに身体を離した菊は、静かに微笑んだ。


「菊・・」


その八ツ橋は分かりにくいぞ、とルートは小さくため息をもらし頷いたのだった。


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