小説

□lastdance
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『弱さというものはこんなに歯痒いのですね』

昔、菊がふとそんな事を呟いた。
その時の菊の表情がとても悲しく感じられて
(菊は自分を憎んでいた様にも思えた)


俺は返事が出来ず、ただ曖昧な吐息を漏らすだけだった。






「そろそろ限界ですかね」

焼けて擦れてボロボロになった軍服を纏った菊が自嘲気味に言った。

日本刀を強く握りしめ、血が滲んでいる手が微かに震えているのが分かる。


「っ・・そう、なのかもしれないな」


俺の腕も力が入らない。弛緩した筋肉はもう、とうの昔に限界を越えている。



「フェリシアーノくんは無事でしょうか」

「あぁ、アイツなら無事だ」


この戦場に残っている味方は俺たち2人だけだ。
きっと今ごろフェリシアーノは心配してるだろうな。



意識していないと倒れそうな体に無理矢理力をこめる。




「菊、行くぞ」

「ハイ」

「俺たちは俺たちの正義を貫くんだ」


「・・・守りたい者の為に、ですね」




菊の青ざめた顔が笑顔をつくる。



そしてまた、あの時の台詞が走馬灯の様に






『護りたいものがあったんです
たくさんたくさん

でも私の脆弱な力ではとても手に負えませんでした


だから強くなろうと決めたんです
せめて自分の手の中に在るものは守れるくらいに



私が


私が






私、が


もっと強かったらっ・・』




綺麗すぎる涙が一筋、
菊の頬を伝っていた。






「ルートさん、行きましょう、これが最後です」


「あぁ」



俺たちは歩き出す
万が一にも俺たちが勝つ見込みなんてあるわけがない。


だけど






「ラストダンスだ」






俺たちはあの日、強くなると深く深く心に刻み込んだから。




ーーーーー
有名なあの曲から。


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