小説

□あなたとの微かな
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左胸の奥がドクン、と波打った。
一瞬のはずのそれがとても長く感じられて、
意識が軽く遠のいてしまうかと思った。


伸ばした手が空気を掴んで、情けない声が零れ落ちた。




「アルフレッド!お前やりすぎだぞッ!」


膨れ上がった怒りに任せ、俺は怒鳴る。
矛先を向けられたアルは少しだけ悲しそうに俺を一瞥して、黙り込んだ。


「仕方ないじゃないか
こうでもしないと彼は、菊は降参なんてしない」

「だからって・・!」

「アーサー、これが俺たちの正義だよ」




確かにこれが俺たちの正義で、この勝利を死に物狂いで勝ち取った。


だけど、だけど俺は







こんな結末を望んでいたわけじゃない。



「俺はっ、」



菊を護ってあげようとあの日誓ったはずなのに、
なのに


何時の間にか、



「菊っ・・」



嗚呼
でも、あの時俺の手を離したのは菊の方だった。
それは、何故?



色々な感情と記憶が入り混じって、訳が分からない。


「アーサー、君に菊の様子を見てきてほしいんだ」


アルは何処か遠くを見ている。
何を思っているのか俺にも分からない。



「・・そうだな」


俺は唇を強く噛み締め、歩き出した。









「・・菊?」


コンコン、と軽く扉を叩いてからゆっくりと部屋のドアを開ける。

中を覗くと痛々しい姿になってしまった菊が
虚ろな目でこちらを眺めていた。



「アーサー・・さん?」


掠れた声。
俺が思ったより菊の容態は最悪らしい。


「すみませっ・・こんな見苦しい姿・・っ」


死にそうな声で菊は目を伏せた。
今はそんな事を言える状態ではないのに。



「菊、ごめんな」

「・・・・何故謝るのですか」


「俺はっ」




言葉が詰まる。
思った通りに口が動かない。



「アーサーさん」


驚く程冷たい手が俺の頬に優しく触れた。



「謝るのは私のほうです」

「っ・・?」





「私には守りたいものがありました

最初それは私自身でした
けれど次第に私の守りたい対象は増えていったんです




けれど私にはそれを守れる力がありませんでした


護りたいものの内の一つは、アーサーさん貴方でした」



泣きそうな俺に語りかけるように菊は話し始めた。


「菊・・?」


「私は貴方を護りたかった
けれど、やはり私にはその力は無くてただ時代に流されるだけでした




だから、私は貴方と私を護るために、貴方から手を引いた



その結果がこれです
・・私、馬鹿ですよね」




菊が情けない笑顔を作った。



「菊、俺も菊を護りたかったっ」


涙がボロボロとあふれ出てくる。



「これからは、またよろしくお願いします」



優しく優しく微笑んだ彼に俺はただ頷くしかなかった。


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