小説

□ギルベルト消失
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※ルート視点




「・・・っ」


おぞましい程嫌な悪寒が突如体を襲った。
激しい目眩に冷や汗を流しながら、ルートヴィッヒは直感的に何かがたった今喪失してしまったのを感じた。


「兄さん、」



思い浮かぶのは銀髪に紅い瞳が良く似合っていたたった1人のルートの肉親ギルベルト。


「兄、さん」


茫然と呟くその声は絶望感に満たされている。




「逝った・・のか?、俺を置いて・・」



スカイブルーの瞳に大粒の滴が溢れ、流れ出した

何百年と共に過ごした思い出が幻影のように目の前に次々と現れ、霞のように消えてゆく。

それに手を伸ばそうと、椅子から立ち上がり、力を無くしてしまった脚がくの字に折れ、地面に膝を突いた。

綺麗に撫でつけてある、金髪は既にグチャグチャに乱れている。



確かに最近のギルベルトは明らかに可笑しいとルートは了承していた。


けれどプライドが高くて意地っ張りな彼は自分に心配をかけないように、と気丈に振る舞っていた。


だから痛む胸を無理やり押さえ込んで、非道く痩せてしまった彼の背中をただただ見つめるしかなかったのだ。


けれど、と
ルートは激しい後悔の混じった息を深く吐き出した。


だからこそ傍にいてやれば良かった、と再び涙の混じった嗚咽をもらす。


「ごめん、ごめんなっ、兄さん、」



もっと一緒に過ごしたかったのに、
庭に植えた兄さんの好きなジャガイモがもう収穫できるというのに、


俺はこれから、どうすれば





『おい、ヴェスト!
いつまでも泣いてるんじゃねーぞ』






嗚呼、この聞き慣れた、もう聞くことの出来ないこの声も、自分の記憶が見せた幻影なのだろうか。




「兄さん」




『強くなれ俺よりも、親父よりも
お前は1人じゃない
仲間がいる、だから立ち上がれ』


ぼんやりとした思考に響くその言葉は──、











「 」





そっと、ルートの頬を伝い落ちる暖かい涙を拭った。


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