小説

□振り解いたその手
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自分の存在が憎くて憎くて、唇を強く噛み締めた

それでも何も出来なくて改めて自分の弱さを呪った。


「ルート、菊」



かつての仲間たちの名前を呟く。
それはさらに自分の辛さを増す行動だったのだが

「ごめんね、」


一体この言葉を自分は何回口に出した事だろう
いいや、きっと何度呟いてみたって、彼らは自分を許してはくれないだろう


真っ赤になった目をゴシゴシと拭い、けれど止まらない涙は木目調の床に次々と水たまりを作ってゆく。


「俺が、弱かったからっ」


恐らく今頃2人はまだあの圧倒的に不利な戦火の中戦っているのだろう
あの火薬の匂いが充満した、とてもとても恐ろしい場所で。

窓から空を見上げる
あちこちから立ち上る煙や炎が、嫌な記憶を呼び起こす。

痛くて
怖くて
友人が血を流し傷ついてしまう、あの惨状。



「ごめんねっ、俺、ずっと迷惑ばっかりかけてっ、」


目頭が熱くなり、我慢していた声にならない声が喉の奥で詰まる。








「ルート」


「菊」





裏切ってしまった自分が語る言葉ではない
彼らの敵に回ってしまった自分が願うことではない


けれど
けれど

2人ともどうか無事でいて、









「おい、フェリシアーノ
ついにドイツが降伏したらしいぞっ」

「・・っ、ルートは、
ルートはどうなったの?!兄ちゃん!」


乱暴に扉を蹴破った兄、ロヴィーノが声を荒げ、激しい口調でそう告げた。

咄嗟に口から飛び出た自分の言葉にロヴィーノは悔しそうに顔を歪め、目を逸らして床を見つめた。

先ほどの自分と同じ様に唇を噛みしめたまま何も言わない。


「っ・・・!」



一瞬意識が遠のくのを感じた。

嘘だ
厭だ

そんなの



2人の懐かしい笑顔がフラッシュバックの様に鮮やかに甦る。



「菊、は・・?」


「まだ独りで戦ってる」


「っなんで・・!」




嫌な予感が脳裏をよぎるこのままじゃ、菊は
多分、きっと

もっと傷ついてしまう。





「もう止めてよ菊っ」




喉が千切れるくらいに叫んだ。
けれど遥か遠くに存在する彼には、届かない。



「ルート」

「菊」






何とも場違いな暖かい日差しが差す窓の近くで
幾度も大切な名前を呼びながら、自分は終結をただひたすらに待つしかなかった。


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