小説
□胡乱な思考を遮って
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※米+日
最後かもしれない、
虚ろに歪んだ視界がハッキリとそう思わせた。
額を伝う汗を拭う余力さえも既に身体には残っていない。
力が抜けてぶら下がっているだけの両手は鉛の様に重くて、もう使い物にならない。
血にまみれて半分錆びてしまった身を守るべきための道具は無造作に足元に転がっている。
「君はそんな姿になってもその強い瞳だけは揺らがないね」
敵ながら尊敬してしまうよ、なんて解りやすい皮肉でニヤリと不敵に微笑んだ彼は元気そうに革靴を鳴らしながら近くまで歩み寄ると、手に持った拳銃を私の頭に押し付けた。
金属の冷たい感触が伝わる。
「・・何故君はそんなに立ってられるんだい?」
彼の目が疑問に満ちた色に染まった。
悲しそうな顔をしているけれどそれは定かではない。
「ルートヴィッヒはもう降伏したよ
どうだい、実に賢明な判断だと思わないかい?
君にはもう仲間は居ない
君は独りなんだよ」
「っそれ、が・・どうした、と云うのでッ、しょ」
「驚いたなぁ
まだそんな減らず口が言えたのかい?」
コツコツ、と頭を数回軽く小突かれる。
それだけなのに頭の中身が激しく揺さぶられた様に、思考がぐちゃぐちゃに掻き乱され少し意識が朧気になった。
吐き気とともに食道に胃液がせり上がってくる。
(胃の中にはもう何も無かったけれど)
「ねぇ菊、聞いて」
もう大分聞こえなくなった耳に、誰かの声らしき音が飛び込んできた。
目の前に立っている、金髪の青年が何か喋っている。
嗚呼
いや、違う
これは、これは
私は、
思考が纏まらない
融けだした記憶がほどけて、なにも判らなくなってしまう
「もう終わらせる事にしたよ」
「終わらせ・・っ、!?」
瞬間、
地響きと爆音が辺りに轟いた。
かつて感じたことのない衝撃が全身に襲い掛かり、それを理解する前に意識は完全に途切れてしまった。
[血の雨だ、]
そんな言葉がふと脳裏をよぎった。