novel(GS)
□夕陽が照らした先の2人は、
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それは、ある運命の日の午後。
『 夕陽が照らした先の2人は、 』
「み、つるぎ…」
らしくもなく忙しなく事務所のドアを開けた私に、ソファに座っていた彼は力なく顔をあげた。
今回の事件の中心人物、成歩堂龍一。
「成歩堂…」
その表情を見て、思わず言葉に詰まった。
再び目線を下に向けた彼に、静かに近づく。
いろいろと言いたいことはあるのだが、なかなか言葉がでてこない。
息をひとつついて、できるだけ自分を落ち着かせるようにした。
「話は、聞いた」
今日の裁判で、“ねつ造”された証拠品を提出した。
その犯人が、彼――成歩堂龍一弁護士である、というものだ。
そして、それまでも話題の弁護士だったことが災いして、検事局にもその話は瞬く間に広がったのだった。
「やっぱり、話が回るのは早いねぇ…
きっと、ぼくが完全なる悪者なんだろうね」
「…成歩堂……」
力なく笑った成歩堂はそう答えたが、私の顔は一切見ないまま。
確かに、私が聞いた話の中にも詳細はほとんどなかった。
ただ「成歩堂弁護士が偽の証拠品で被告人の無罪を勝ち取ろうとした」その事実だけが妙に主張して耳に届けられた。
「そうだ。ぼくが悪いんだよ。
全部、ぼくが―…」
「…私は、君がそんなことをする人間ではないことをよく知っている。」
「分かったような口聞くなよ。君だって幻滅しただろ。
それとも、あわれだと笑いに来たのかな」
それでも、顔を上げようとしない成歩堂。
その瞳は、彼のカラーとは正反対の法廷に立つ際の真っ赤に燃える瞳ではなく。
ただ、揺れているように感じた。
「成歩堂…頼むから、そんな顔をするな」
「な、なんだよ…」
真実を探ろうとする君の瞳が、この私さえも変えてくれたこと。
いいや、私だけではない。
共に法廷に立ったことのある人物ならば、全てが彼の影響を受けるだろう。
しかし、君は、ただ強いだけではないこと。
話によれば、成歩堂はねつ造が発覚したそのとき、そしてそのあとも静かに法廷を見守っていたそうだ。
「私には、ぶつけてくれてもいいではないか」
ソファに座っている彼に目線を合わせるように、床に膝をついて彼の表情を覗いた。
「君のことは、私がいちばんよく知っている。
例えそれがどんな結末でも、君はそれを…真実を、君は自らねじ曲げたりはしない。」
「………」
「だから…哀しければ泣いてほしいし、腹が立つなら、怒ればいい。
君のことだ、今まで我慢していたのであろう…?」
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