novel
□you don't disappear
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新学期。
それは俺にとってどうでも良いものだ。
よく今まで退学をくらわなかったもんだと、一人笑う。
夜桜が街灯に照らされる公園で、コンビニ弁当を頬張る。
今、こんなとこに居るのも、わざわざ学校に行くのも、家に居たくないから。
ただ、それだけ。
毎日学校行って、喧嘩して、街をふらふら歩いて、夜遅く家に帰る。
それが俺の日常。
可笑しいとは思う。
馬鹿馬鹿しいとも。
でも、これしかやることがない。
他に何をしていいかわからない。
肩に落ちた桃色の花びらが鬱陶しく思えて、乱暴に手で払い落とした。
公園を出た俺は、ネオンが瞬くビル街へと足を踏み入れる。
夜遅くでも眠らない街。
忙しなく動く人。
それを横目で一瞥しながら、俺の足は灯りのあまり無いところに向かう。
昔からそうだ。
俺は人のたくさん居るところが苦手で、人と接するのも嫌い。
できれば関わりたくないし、放っておいてほしい。
ふと、聴こえたジャズに耳を向けると、そこには古くさい喫茶店があった。
ディテールに凝った看板には見覚えがある。
昔、弟が此処のエスプレッソが美味いと騒いでいた。
今では兄弟で出掛けることなど全くなくなってしまった。
弟は自分よりデキるのだ。
勉強も、美術も、人に愛されるのも。
両親も爺ちゃんも、周りの大人達は皆、十人が十人共俺より弟を選んだ。
手先も性格も不器用な俺だから、愛されないのは当たり前だが。
…少し、少しだけ、"悲しい"とも思う。
…なんて、馬鹿らしい。
そろそろ、帰ろう。
そう思い、家路へ向き直った体を、阻むものがあった。
―まさに、漫画の様なタイミングだ。
目の前に立ちはだかるのは、学ランを着くずし、多種多様どこからそんなもん取り出したんだと言いたくなる凶器を構えた男達だった。
「おめーがヴァルガスかァ?何か最近、調子乗ってんじゃねぇ?」
ヤンキーの一人がピアスだらけの口を開く。
「ガキのクセに暴れ回ってんじゃねぇぞ、コラァ!!!」
暗くてよく見えないが、6、7…少なくとも8人は居るだろうか。
いつの間に俺の名はここまで広まったのか。
しかし、こんな状況でも俺の心は驚く程静かだ。
微塵たりとも焦っていない。
そうだ。
…どうせ、いつ散っても変わらない命。
誰にも必要とされて居ないのだから。
「さっきから黙ってんじゃねぇよヴァルガスゥゥ!!!!!」
肩に落ちた花びらを、今度は掴み、握り潰した。