宴会。

□夏祭り
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外が薄暗くなってきた頃。

授業が全て終わり一風呂浴びた私たちはそれぞれの部屋に戻った
雷蔵は部屋に入ると早速たんすから揃いの浴衣を二着引っ張り出してきっとみんな見分けがつかないねなんて言いながら笑った

「…雷蔵、やっぱりやめないか」

私が言うと雷蔵は眉を寄せてどうしてさと言った

「きっと私は似合わないよ」
「そんなことないよ」

同じ顔じゃないか。と雷蔵は言うけれど違うよ雷蔵

私は心の中で言う

顔は同じでも、同じじゃないんだ

私は不破雷蔵じゃないんだよ

「雷蔵だけ着ればいいよ」
「だめだよ。一緒に着るって約束したじゃないか」
「雷蔵の方が似合うよ」
「だから同じだってば」

同じじゃないってば

また私が心の中で言う

雷蔵は明らかに不機嫌になっていた

「私はいいから、雷蔵着付けしなよ」
「三郎」

露骨に嫌悪を表情に出す雷蔵

そんな顔したってね雷蔵。
仕方ないじゃないか

私は雷蔵の変化に気づかないふりをして視線をそらした

私が思っていることなんて照れくさくって言えないじゃない

雷蔵はしばらく黙って私を睨んでいたが、ふっと視線を外すと突然持っていた浴衣を床に投げ捨てた

「雷蔵!何してるんだ」

私が驚いて彼を見ると、彼はすねた子供のような悔しそうな表情を浮かべていた

「三郎が着ないなら僕も着ない」

言葉に詰まった

予想外のセリフに嬉しさと戸惑いが混ざって何と言っていいのかわからなくなったのだ

私はクスリと笑うと投げ捨てられて乱れた浴衣を拾い上げて

「そんなこと言わないで。きっとよく似合うよ」

いまだに不満そうな顔をしている雷蔵に着せてやった

私がせっせと着付けしている間も雷蔵の表情は変わらなかったけど私は気にせず帯をきれいに結んでやった

「ほら、見てごらんよ雷蔵。とってもきれいだよ」

私は棚から変装のときに使う鏡を持ち出して雷蔵に渡した
お世辞ではなく彼は本当に浴衣がよく似合っていた

色合いは地味だけれど桜の花びらの模様が地の藍によく映えて彼の栗色の長髪がやけに輝いて見えた

鏡を見つめるその横顔がいつもより色っぽくて思わずドキッとした

「……」
「どうだいきれいだろう」
「…三郎も着てよ」

小さな声で呟くように言う雷蔵がとても可愛くて私は笑ってしまった
すると雷蔵はまた不快そうに私を睨んだがそれさえも愛らしく思えてしまう私はさてどれだけ彼を愛しているのだろうか

「何か可笑しい」
「いや、ごめんごめん」

笑いながら私は表情の晴れない彼の手を握った

「あのね雷蔵、私は君が好きなんだ」

私がそう言えば、雷蔵は急に何を言い出すのだと言うかのような驚きと呆れが混ざった表情をした

「だからね、今夜は君だけを見たいんだ」

君と言うたった一人の人間の、私の想い人の姿を濁りなく見つめたいんだよ
私が今夜君になったら君のそのせっかくの美しい姿が濁ってしまうだろう
偽者のせいできれいな君の邪魔をするなんてもったいないし馬鹿馬鹿しい話じゃないか
私は変装の名人なんて言われているけどね、それはあくまで忍者としてなんだよ
娯楽でまで君になったって何も面白くないんだよ
私は君自身が見たいんだ
偽者の私なんかが君になったって意味ないんだよ
君は君だけだろう
今夜は君を見たいんだ
だから偽者は今夜はおとなしくしているよ

雷蔵は無言のままだったがしばらくしてばっと顔をそらした
彼の耳は真っ赤だった
また愛しくてたまらなかったけどからかうのは止めた

だってきっと私の耳も真っ赤だったから

「ごめんね、雷蔵」
「…もういいよ」
「好きだよ雷蔵」

私はそっと彼に顔を近づけた



すっかり暗くなった外から下級生たちの笑い声がする
あの子たちも行くのだろうか
一年に一度の夏祭りに




雷蔵の顔を真似たマスクがぱさりと床に落ちた。











    夏祭り









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鉢屋はこの後祭りに行く気あるんだろうか

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