宴会。

□似非鎮魂歌。
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るーるるるー

私は歌う

私の歌は決して上手くはなかったけれどそんなことは気にしない

るーるるるー

私は歌う




花の香りが鼻をくすぐった

よい香りだった

私は花の名前なんて知らなかったけれど知ろうとも思わなかったけれどその花は好きだと思った

だけどやっぱり花の名前を知ろうとは思わなかった

風は温い

ああ、もうすぐ春は終わるよ

私の言葉に誰も応えてくれなかった




るーるるるー

私は歌う

自分の声を意識して聞いたことはなかった

今日初めて自分の声をはっきり聞いた気がする

そうか私はこんな声をしていたのか

私はこんな声で歌うのか

音痴

そう思った

るーるるるー

その音痴の歌声は薄暗い静寂の中でよく響いた

他に私の声を遮るものは何一つ無かった

るーるるるー

私は歌う

曲名なんてないその曲を

どこかで聞いたようなやっぱり聞いていないようなまあなんでもいっかそんな曲を

るーるるるー

私は歌う




「オジサンはどこから来たの?」

私は目の前の名も知らぬ男に訊いた

男は答えなかった

「オジサンにも家族はいるの?」

私は訊いた

男は答えなかった

「オジサンは寂しい?」

男は答えなかった

「オジサンの家族はきっと寂しがるね」

腹部の大きな傷から多量の血を流した男は横たわったまま答えなかった

微動だにしない

るーるるるー

私は歌う




るーるるるー

私は歌いながら

るーるるるー

よい香りの花をつんだ

るーるるるー

空は灰色

るーるるるー

地面は赤色

るーるるるー

私の前には

るーるるるー

たくさんの無言の客

みんな私の歌を聞いている

るーるるるー

1、2、3…ああ数えきれないや

るーるるるー

私は歌いながら

るーるるるー

つんだ花を少し先に放り投げた

花は力なく放り出された男の手の手前に落ちた

るーるるるー

私は歌いながら

るーるるるー

残りの花を踏みつぶした




るーるるるー

私は歌う

昔誰かが仕事が早い忍者は優秀な忍者だと言っていた

だけれど私はここから動かない

別に優秀じゃなくてもいいもんね

るーるるるー

歌を歌って

るーるるるー

私は待っている

るーるるるー

そうさ大丈夫

るーるるるー

きっと彼は来てくれる

一緒に入学して

一緒に学んで

一緒に走って

一緒に眠った

六年間ずっと一番近くで私を見てきた

私を一番よくわかっている

彼ならきっと

るーるるるー

私の声はかすれ始めていた

るーるるるー

そうさ大丈夫

きっと彼は

いつもと変わらない仏頂面で

いつもと変わらない足音で

きっと来てくれる

るーるるるー

彼に届くとは思わないけれど

彼に届けようとも思わないけれど

彼に届けばいいと

彼に絶対に届くなと

私は願って

るーるるるー

私は歌う

るーるるるー

そう彼は私のことをよくわかっているから

るーるるるー

きっとこの涙にも気づいてくれる

るーるるるー

私は歌う。













  似非鎮魂歌。





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