お題
□19 安心
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19 安心の家
「タカオ、あの標識は何だ?」
学校の帰りにレイに会った。
駄菓子屋でアイスを買っていたレイに声を掛けて、さりげなくアイスキャンディーを奢ってもらった。
キョウジュは学校帰りの買い食いは禁止だと言っていたが、朝早く起きて、一日中勉強して、セミの鳴く暑苦しい中を家まで帰るんだからこれくらいのサービスはいいじゃないかと開き直ってかじりついてやった。
あまりに美味しそうにタカオが食べるので、結局キョウジュもアイスを買ってもらった。
そしたらレイが通りかがりの家の玄関に貼ってある青縁の三角のシールを指した。ランドセルを背負った女の子と男の子が駆け込んでいるようなイラストがあるあれ。
「『安心の家』だろ?」
「安心の家ってどういうことだ?」
「そりゃー学校の帰りに急にトイレに行きたくなったとき借りてもいい家だろ?」
「間違ったことを教えないでくださいタカオ。『安心の家』とは子どもの緊急時に駆け込む家のことです」
誤った意味を教えるタカオを注意して、キョウジュが訂正した。
「どの家でもできるのか?」
「PTAとかで選んでるんじゃないですか?あ、ちなみにPTAとは子どもを持つ親の集まりのことです」
「しかし、シールだけで『安心』かを決めるのは安易じゃないか?もしかしたら複製シールを使って子どもを誘き寄せるということもあり得ないか?」
レイが真面目に聞いてきた。
「それもそうですね」
あまり考えたことのない話しにちょっとだけゾッとした。
「でも、駆け込むような緊急事態なんてそうそうありませんよ」
「俺は知らない人の家に駆け込むってことがなあ。ん?タカオどうしたんだ?」
レイがタカオを見た。
さっきからタカオが静かだなと思っていたが、お腹に手を当て猫背になって不自然な歩き方をしていた。
「顔色が悪いようですね」
「お、お腹冷えた……。ちょっとトイレ借りてくる」
タカオは『安心の家』に駆け込んだ。
「タカオには必要不可欠だな」
「そうですね」
end