お題

□25 シフォンケーキ
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25 甘いシフォンケーキ

商店街から少し離れた場所に最近出来たこ洒落たケーキ屋。
日課の散歩途中にぶらりとその前に立ち寄ってみた。店の外から窓越しに中のお菓子を眺める。
中は女性客でいっぱいだった。

「何をしている?」

「うおっ!」

背後からかかったハスキーボイスに思わず跳び跳ねた。
それに合わせて尻尾髪が大きく揺れた。

「何だカイか」

相変わらず無愛想な顔がそこにあった。

「悪かったな、俺で」

カイが拗ねるように言った。意外とかわいいところがあるじゃないかと心の中で笑う。

「なあ、カイ。ケーキが食べたいと思わないか?」

「別に」

即答。
あまりに潔すぎよさすぎやしないか。
いや、別にいいんだけど。

「ケーキが食べたいなら買えばいい」

「それはそうなんだが。こう女性が多いと入りにくいものじゃないか?」

さっきも言ったが店の中は女性ばかり。男性の姿は一人もなかった。
そんなところに男一人が飛び込むなんてちょっと勇気がいるではないか。

「窓に張り付いている方が俺は恥ずかしいと思うがな」

事実を言われてしまうと反論はできない。

「……ついてこい」

カイはレイの手を引いて中に入った。
カランとベルの音がした。中に入ると甘い匂いが漂ってくる。

「いらっしゃいませー。並んでお待ちください」

と店員の声がかかった。

「どのケーキを買うんだ?」

カイがショウウィンドウを見て言った。

「どれも美味そうだな。ヒロミが言ってたんだがここのシフォンケーキが美味いらしい。やっぱりそれだな」

「分かった」

順番が回ってくるとカイはシフォンケーキを2つ頼んだ。
店員の女性はにこりと笑うとそれをトレーに乗せた。

「お持ち帰りで宜しいですか?」

と聞かれたのでカイがレイを見た。
どうやらここの二階で食べることも出来るらしかった。

「あ、じゃあ持ち帰ります」

レイが答えて財布を出すとそれより早くカイがお勘定を支払ってくれた。

「ありがとうございましたー」

店員の元気な声と共に店を出た。

「入ってしまえば何とかなるもんだな」

レイはカイに言った。

「最初からどうといったことはないだろ」

「それはそうだが。なあ、そこの公園で一緒に食べないか?」

レイが公園を指した。
2つ買ったわけだからもちろんカイもケーキを食べるつもりだろう。

「中で食べても同じだったんじゃないか?」

さっき店員に聞かれたときのことを言った。

「外で食べた方が美味いだろ。しかし、実に勿体ないな」

「何がだ?」

「俺が女だったらカイに惚れるのに。男に生まれたことを後悔するなぁ」

怒られるかな、と思いながらわざと惚けたことを言ってみた。
ほら、だっていきなり現れてケーキを奢ってくれるなんて男前じゃないか?

「お前はケーキ1つで惚れるのか?」

意外にもカイは怒らなかった。
いや、怒ってほしいわけじゃないけど。
カイはああ見えて意外と優しかったりする。

ああ、しかし――

「このシフォンケーキ甘いなあ」



end
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