お題

□01 言葉
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01 言葉足らず



「カイじゃあな」

夕日をバックにほぼ毎日繰り返されている別れの言葉と笑顔。
その時はそれが当然のようにこれからも日常レベルで繰り返されると思っていた。
だからその時もいつものようにただ短く、不器用に「ああ」とだけ返した。
何故ならそれが本当の別れの挨拶だったとは思っていなかったからだ。

レイはその次の日、日本からいなくなった。

いつものようにベイブレードをしようとタカオがレイの宿泊しているホテルに電話を掛けた。
だが、ホテルの人間から帰ってきたのはレイは既にホテルから出ていったということだけだった。
何の予告も、誰にも告げることなくレイは日本を出たらしかった。

それはまるで、最初からレイという存在がなかったかのように綺麗さっぱりレイの物は何一つ日本に残っていなかった。
あるのは記憶だけだった。

レイの故郷に直接連絡を取ろうにも、住所や所在については一切不明だった。

突然すぎる別れに、いつしか怒ることにも疲れてしまった。
レイが日本を離れたと同時に、BBAとの関係も少しずつ薄れていった。
タカオたちはどうかは知らないが、少なくともカイがBBAに顔を出すことは極端に減った。

何度か手紙を書いた。
書いては送り先のない手紙を引き出しにしまう。
そんなのを数年繰り返していたらいつの間にか引き出しはいっぱいになっていた。

もう一層忘れてやろうか。そう思った。

こんなに他人を近くに感じたことはカイにとって初めてだった。
それはきっと特別な友と言ってもよかった。

けれども、そう思っていたのは自分だけかもしれない。そう思ったら、むしゃくしゃした。

こんな手紙は捨ててしまおう。
そもそも俺はこんな女々しい人間ではなかった。何かの気の迷いだったのだ。

カイは言葉を詰め込んだ手紙を海にばら撒いた。

夕焼けの海は、最後にレイと別れたときと同じ色をしていた。

運がよければ海の向こうにいるあいつに届くかもな、そんな感傷的なことを思った。

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