お題

□76 王冠
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76 王冠の似合う人



「なあなあ似合う?」

そう言ってタカオは頭の上に乗っかっている王冠を指した。

「何だそれ?」

ホテルのリクライニングソファでゆっくりしていたレイはタカオの頭を見た。
金色に輝くそれはもちろん本物ではなくプラスチック製の偽物だ。

「外の市で輪投げがやってたネ!それの景品だヨ」

タカオと一緒に街に出掛けていたマックスが教えてくれた。
何でもホテルを出た先の大通りで市が並んでいたらしい。子どもが群がる場所を覗いてみたら、その輪投げがあり、挑戦したところタカオが玩具の王冠を貰ったらしい。
何とも子供だましな玩具だと思ったが、当のタカオは楽しそうなのでそれには触れないでおいた。

「しかし、タカオじゃまるで王冠に被られてるみたいだな」

元気な子供がそのまんま王冠を被っているという感じだった。当たり前だが王様の貫禄はない。

「ちぇっ。何だよ人がいい気分だっていうのによ」

タカオは口を尖らせた。
マックスはタカオの頭から王冠を取って、先程からデータ分析に勤しんでいるキョウジュにこっそり近づき頭に乗せた。
いきなり頭の上が重くなり、キョウジュが振り返った。

「な、何ですかこれは?!」

「OH!キョウジュなかなか似合ってるネ」

パチンとマックスが指を鳴らした。
確かに、小さな島国の王様みたいに見える。

「も〜遊ぶのは止めてくださいよ」

「いいじゃんかよたまには。煮詰まったってしょうがねぇよ。たまにはパーッと遊ばなきゃよ!」

タカオがそれらしいことを言った。とは言ってもタカオはいつもパーッと遊んでいるが。

「こういうのは大転寺会長の方が似合うんじゃないですか?」

キョウジュは王冠を頭から下ろしてマックスに渡した。マックスも王冠を被りにこりと笑う。
レイは王冠を被る大転寺会長を思い浮かべた。おまけに派手なマントも付けてやる。

「確かに。はまり役かもな」

「RPGに出てくる王様って感じだよな」

「ええ。かなり似合いますね」

あまりに似合いすぎて、皆で笑った。

「レイもどう?」

マックスが王冠をレイに渡した。

「俺は遠慮するよ。王様って柄じゃないしな」

風来坊よろしく、自由なレイには最も不向きな役と言えよう。一族の皆が聞いたら何かと言われそうだが、人の上に立って指示を出すというのはどうも性に合わない。
レイはソファから立ち上がると、王冠を持ってベッドに近づいた。

さっきから静かだと思っていたが、カイは珍しく昼寝をしていた。
レイはそのカイの頭に王冠を置いた。

「貫禄ならカイが一番だな」

悪戯を完了したレイが満足げににやりと笑った。
キョウジュが「バレたら怖いですよ」とか言いながらもタカオたちと一緒に声を殺して笑っていた。

「まあ王様というよりわがまま王子様って感じだけどな」



end
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