お題

□46 影
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46 の人


ボリス・クズネツォーフは苦笑いをした。
町に買い出しに出て古い仮屋の自分の部屋のドアを開けると、血の臭いが充満していた。
買い物袋をそっと玄関に置いた。
自慢じゃないが、恨みをかっているやつは五万といる。その内の誰だとか、それともボリスとは全く縁のないただの殺人器かもしれないということは今の状態では判断がつかない。あるいは――とそこに思考が至るととても嫌な気分になった。
部屋に人の様子はなかった。
ただ窓が空いていて、カーテンが風に揺れていた。
カーテンの流れる先にベッドがあるが、そこに人が倒れていた。
赤い血のようなものが黒い服に付着している。

ボリスは口許を引き吊らせると、足音を大きくしてドカドカとベッドに近づき、寝ているだけか、遺体なのかよく分からないそいつを蹴っ飛ばした。

「おいてめぇ!また人ん家に勝手に入りやがったな。てかその格好でベッドに寝るな、汚れるだろうが!」

頭の辺りにグリグリと踵を押し付ける。
相手は無言のまま顔を枕に押し付けられる。
その時、無言の逆襲が返ってきた。
足首を左右の手で掴まれるとそのまま力任せに引っ張り上げられた。
見た目からは考えられない強力によりボリスは顔面を壁に打ち付けられた。
それはもう思いきり。
受け身も無しにだ。

ボリスは悶絶して、顔を押さえてしゃがみ込んだ。

「―――っ」

「女を蹴るなんて酷い奴だな」

相手はベッドの上に座り込んで胡座をかいてけろりとしていた。
尻尾みたいにバカ長い髪をピンと指で弾いて後ろにやった。

「あ?誰が女だ?てかほら、やっぱりシーツが汚れてんじゃねーか。ちゃんと洗えよな」

「小さい奴だな」

「俺は神経質なんだよ。早くその服着替えろよな」

「脱げとは大胆だな」

「はあ?馬鹿か?!」

ボリスは泣きたくなった。こいつとの会話はいつだって頭が痛くなる。
ボリスはフラフラと箪笥からTシャツとGパンを投げ渡した。

そいつは「サンキュー」とだけ言って、勝手知ったる我が家のごとくシャワールームに消えた。
その間に血で汚れたシーツを引き剥がす。

その間もなく響いたシャワーの音に耳を傾けた。



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