お題

□28 ミルクティー
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28 ロイヤルミルクティー


「カイ。お前ってミルクティーよりもロイヤルミルクティーの似合う男だな」

ある昼下がりの往来の小さな喫茶店。
ジャズミュージック何かに耳を傾けながらロイヤルミルクティーのカップを一口。
どんな縁だか、目の前には中国少年がいて、そいつはお月様みたいな真ん丸の金色の瞳でまじまじとカイを見つめていた。

「……は?」

また分けの分からないことを言っている。
彼のグラスには烏龍茶。透明の氷がカランと涼しげな音を出す。
冷房が些か効きすぎているこの場所では冷たい響きにさえ感じた。

「だから、カイにはミルクティーよりもロイヤルミルクティーが似合うという話だ」

話が聞き取れていないのだと勘違いしたらしく、レイはもう一度言った。
一応言っておくが、別に聞き取れなかったわけではない。
突拍子のない言葉にただ話の意図が読めなくて返す言葉がなかっただけである。

「意味が分からん」

そう言ってやると、レイはストローに口をつけた。
烏龍茶がみるみる減っていく。

「ミルクティーとロイヤルミルクティーの違いを知っているか?」

喫茶店には必ずあると言っていい定番メニュー。その『ロイヤル』って一体何なの?ニュアンスで何か高級感があるなんて思ったりする人は多いのではないかと思う。
しかし、そこは火渡の御曹司様です。ミルクティーとロイヤルミルクティーの違いなど分かって当然だった。

「茶葉を煮たものがロイヤルミルクティーだろう?」

常識だろとばかりにしれっと答えた。
御曹司は期待を裏切らない。むしろ、裏切ってほしいのにだ。
一度でいいから「知らないな。教えてくれ」そんな言葉を彼に言わせてみたいと思うレイだった。

「その通りおめでとうカイ」

「馬鹿にしてるのかお前は?」

レイがぱちぱちと拍手した。その行動がカイの気に障る。
不機嫌になっていくカイを察して、レイもさらりと話題を戻すことにした。

「お湯に茶葉を淹れてミルクを加えたのがミルクティー。お湯を煮てそこに茶葉を淹れ、ミルクを入れて再度沸かしたものがロイヤルミルクティーだそうだ。だからロイヤルミルクティーの方が味わい深いということらしい」

この間本で調べて知ったばかりの知識を披露した。
普段本なんて必要迫られないかぎり読むことはないレイだったが、食べ物に関しては別だった。

「だからそれが何なんだ?」

まどろこしい会話にいい加減終止符を打ちたくて、半ば結論を急くようにカイはレイを見た。

「んーだから手間がかかってる?」

「何で疑問系なんだ?」

可愛く首を傾げているつもりだろうが、何の意味もないぞと心の中で突っ込みを入れる。

「いや、だからさ『ミルクティー』が似合うと言われるより『ロイヤルミルクティー』が似合うと言われた方が得な気がしないか?」

「別に得だとは思わんが」

が――何となく言いたいことは分かる気がした。
形容詞が付くことによって、特異性が増すということだろう。


「でも俺はロイヤルミルクティーの方が好きなんだ」

そう言って烏龍茶のストローを吸うと中身は空だった。

意味などない、そう分かっていても一度勘違いして再生されてしまったものは、どうにもならなかった。
今日もまた、こいつの言葉に振り回されている自分が悔しかった。

どうせならホットではなくアイスを頼めばよかったとカイは思った。


end
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