お題

□48 湖面
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48 湖面デート


デートがしたい、そんな思い付きみたいな、コンビニのアイスが食べたいみたいな軽い口ぶりで誘われて、それでも断るという考えが浮かぶカイではなかった。

言ってしまえば、それくらいにカイはレイに惚れていた。

デートらしいデートなど久しぶりだった。
付き合いを初めて2年くらいになるが、平日はカイは学校に行っているし、休日になると大抵いつも行き先は木ノ宮タカオの家で馴染みのメンバーで集まって騒ぐというのが定番。
休日といったら木ノ宮タカオの家が定番になるとは夢にも思っていなかったが。
レイはタカオが好きだと言う。勿論友人として。
見ていて飽きないのだそうだ。いつも突拍子なくて、真っ直ぐで、無茶苦茶で見ていてハラハラするのが楽しいという。
カイからしたらレイもそうなのだが、敢えてそれは黙っている。
だから暇を持て余すとレイは「タカオのところに行こう」と言い出す。
実に馬鹿げているし、幼稚だとは思うがカイにはそれがあまり面白いことではなかった。
かと言って「木ノ宮のところへ行くな」「俺だけ見てろ」などという情熱的な言葉がカイから出ることもなく、その定番は定番のままだ。

久しぶりの二人きりのデートなので心なし気持ちは軽い。軽すぎて鼻歌を歌うだの、始終笑みを浮かべているだのというあからさまな変化はカイにはなかったが、それでも機嫌は良かった。

湖でも歩きたいというレイの提案から二人で隣町の自然公園に来ていた。

「見ろカイ」

レイがふと歩きを止めて、柵から上半身身を乗り出して示した。
その先には白い大きな鳥――恐らく白鳥が浮いていた。

「落ちるなよ」

あまりに身を乗り出すものだから、うっかり落ちてしまうんじゃないかと思う。レイに限ってそんなヘマはないと思うが。
レイは何を思ったかひょいっと柵の上に立った。そのまま腕を広げてバランスを保ちながら歩く。

「おい」

さっきの注意を聞いてなかったのかと、声に怒りを込める。

「カイ」

レイはそのまま器用に前に進んでいく。
コツを掴んだらしく、手はほとんど動かしていなかった。

「俺、カナヅチなんだ」

顔を傾けてニッと笑っている。

「溺れたいのか?」

そこは笑うところなのだろうか。
カイは咄嗟にレイの髪を掴んだ。

「その時はカイが助けてくれるだろ?」

余裕――否、自信に満ちた笑みを浮かべるレイ。
どこにそんな自信があると言うのだろうか。

「もし俺が助けなかったらどうするんだ?」

「その時は俺は死んでいるからどうしようもないな」

全くその通りだ。
助けられることがなければレイはそのまま溺れ死んでしまう。
死んでしまっては恨むことも失望することも出来ない。

「でもカイなら助けてくれると信じてるぞ」

こういうのを無条件の信頼というのだろうか。
信頼されるというのがこれほどプレッシャーでこれほど嬉しいと思うなんて、俺はマゾヒストなんじゃないだろうかと心配になる。
むしろ溺れているのは自分の方だと気づかされる。

「そんな状況は御免だがな」

そう言ってカイはリード代わりの髪をしっかりと握った。

end
 

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