お題
□77 流星群
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77 ペルセウス流星群
カチッという音につられて、壁を見た。時計が1時の時間を指していた。
読みかけの本にしおりを挟んで、さあそろそろ寝ようと部屋の明かりを消した。
そのまま大きめのシングルベッドに腰を下ろすと、窓の方でカツンと音がした。カイは一瞬それに動作を止めて、カーテンの閉じてある窓を見る。
――まさかな。
そう疑いつつも、確かめるということはせずそのままシーツを捲って足を滑り込ませた。
窓側を背にするように横たわると、またすぐ近くでカツンと何かがぶつかる音がした。
その音を三度目まで聞くと、カイはため息をついた。
諦めて、カーテンを開けると、ちょうど目の前にある木の枝だの合間にきらりと光る目を見つけた。
それを確認するとカイは仕方なしに窓を開けた。
「……何だ不法侵入者」
「やっぱり起きてた」
「寝ようとしていたところだ。というかこんな時間に何の用だ?」
いくらなんでも不躾じゃなかろうか。
「なあ散歩に行こう」
「はあ?」
「今日、流星群が見えるんだ」
そういえばニュースでそんなことを言っていた。ペルセウス流星群というのが13日から20日の間で日本で観測できるのだ。確か今日の深夜が見頃なのだとか。
「今さらか?」
「今からじゃなきゃ見えないだろ」
そういう意味ではなく、今頃それを誘うのかと言いたかったのだが。
そうこう考えていると、渋っていると思われたらしくレイは少し眉尻を下げて気落ちした声で聞いてきた。
「無理か?門限とかあるか?」
外出に関しては仕事上使用人がやたら気にするのだが、そんなのは日常茶飯事だ。
カイは心中でため息をついた。
自分も大概甘い奴だと思った。
「……ちょっと待っていろ。着替える」
そう言ってカイは奥に引っ込んだ。
パジャマから普段着に着替えてから窓に顔を出した。
「裏口から出る。下で待ってろ」
「了解」
その返答を聞くとにっと笑ってからレイは器用に木の上から飛び降りた。
それを見るのは今が初めてではないが、何度見ても心臓に悪い。
何故ならばここは三階なのだ。普通の人間なら骨折をする高さだ。
レイが無事下にたどり着いたのを確認してからカイは窓を閉めた。
裏口から出てレイのいる正面に回る。
垣根の中からひょこっとレイが頭を出した。
「こっちだ」と顎で示唆して裏門に導く。
裏門の鍵を出した。鍵にはセンサー付なので、鍵とセットのセンサーキーをピッと読み込ませてから鍵を開ける。
開けながらも、こんな不法侵入者がいる時点でこのセンサーの意味がないのではないかと思った。
敢えて本人にどうやって敷地内に入っているのかを聞く気にはなれないが。
「――で?どこへ行くんだ?」
「ここじゃ町の明かりがあってよく見えない。いいところを知ってる」
今度はレイがカイの前に出て先導した。
てくてくと歩くその背中にカイは続いた。
歩きながらもちょっと眠気も相まって、今は現実なのだろうかと思ってしまう。
夜中に突然木の上からレイが現れて、星を見に行こうと誘われて、それで今こうして一緒に歩いている。
かつてこんなにも人に振り回されたことは家族を除いてはなかった。
日頃家族に振り回されているからこそ、人に壁を作り弱味を見せてこなかったつもりだが今はどうしたことか。
普通なら無作法にいきなり深夜に現れた奴がいたら「ふざけるな」と突き返しているところだ。
一体どういう心境の変化と言えようか。
前で揺れている白い尻尾を見つめながら、まるで催眠術にかかっているみたいな気分になった。
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