お題

□31 髪型
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31 髪型



※カイにモブ彼女がいます。登場はしませんが苦手な方はご注意ください。











「カイその顔はどうしたんだ?」

今朝顔を会わせたときはなかったものが、夕方にまた顔を会わせるとありありとその存在を主張していた。
カイの色白の肌にはうっすら紅色の手形模様が主張していた。
この部屋に入った瞬間からこの部屋の主が最悪に機嫌が悪いことは部屋の空気から察していた。
そして案の定その主の機嫌は最悪であった。
表向きは静寂だ。だが閉じられた目や、キツく閉じられた唇、テーブルについた頬杖からは苛立ちを隠しきれていなかった。

だからと言って物怖じをするレイでもなく、知りたいことは相手が誰であろうと率直に聞くのが性分だ。

レイの声を聞いた途端僅かに額に青筋が浮くのを見逃さなかった。
まさか自分に対して怒っているのだろうかと直感する。
これで直感は当たる方だとレイは自負していた。しかし、当たるにしても当たらないにしてもカイの怒りに触れるような心当たりはなかった。
ましてやカイに平手打ちなどした覚えも事実もない。

カイと付き合う上でレイはとかく波風を立たせぬようにしていた。
とは言っても普通に生活をしていてそうそう怒りに触れることはないのでほとんど意識はしない。
普通にしていて怒りを買うなどは考え方が真逆のタカオか、カイにとって余ほど気に食わない相手くらいのものだろう。彼の素っ気ない態度は最早標準スタイルなのだ。
普通に生活をしていれば何ら問題ないのだ。普通にしていれば、だ。
が、しかし目の前の当人は苛立ちを隠せていない。あのポーカーフェイスが売りのカイがだ。
それだけでカイの苛立ちのボルテージが相当なものであることが窺える。
しかもその怒りは半ば自分に向けられたものらしいことにレイは頭を捻った。
もしかしたら知らず内にカイに対して何かしていたのかもしれない。
レイはゆっくりと昨日から今までの出来事を思い返した。

久しぶりに来日したレイは真っ先にタカオの所へ行った。
何の前触れのないレイの来訪にタカオは大いに驚いたが、喜んだ。
そのあとキョウジュやマックス、カイが呼び寄せられ、これまでのことを語らいした。
図々しくもレイはタカオの家に泊まる予定でいた。
なのだが、次の日は祖父と親戚の家に泊まりに行くとの話を聞いてその予定は遠慮することにした。
キョウジュには何故か全力で泊まりに来ることを拒否され、マックスはちょうど母親のジュディが日本に来る日だったらしく、親子水入らずを邪魔するのも申し訳ないと思いレイ自ら遠慮した。
そこで都合よく一人暮らしを始めたというカイのアパートに厄介になる成り行きになったのが昨夜のこと。
レイは初火渡カイ宅に宿泊をすることになった。
意外とこじんまりとした一人暮らし用のアパートに感心しつつも、家具やら家電やらはそれなりの物を使っているチグハグ感に内心笑ってしまった。
カイと2人で過ごすのはBBAの世界大会時に経験済みなので、特に緊張をすることもなく平和且つ有意義な時間だったと言える。
カイの作った夕食(これがいかにも味気ない)を食べて、離れていた間の私生活の話をしたり、BBA時代の話をしたりで意外と話題は絶えなかった。
そのあと風呂に入って適当に話をして、レイはベッドを借りてカイはリクライニングのソファで寝た。
朝起きてからは夕食の礼に朝食はレイが用意した。
その時もカイは特に機嫌が悪い様子はなかった。
そのあとカイは学校の課題をやるというので邪魔をするのも悪いのと、レイ自身が暇をもて余すので午前中から外に一人で出掛けた。
日中はお世話になった大転寺会長に顔を会わせて、そのあとはカイにもう少しましなものを食べさせてやろうといらぬお節介で夕飯の買い物をした。
途中商店街で肉まんを購入して真っ直ぐ帰宅をして現在に至る。

戻ったら今の状況であるからして、どこかに落ち度があったかと腕を組んで真剣に頭を悩ました。

そもそもその似合わない平手打ちの痕は何なのか。

「――カイまさか婦女暴行を働い」

思いつきの冗談を口にすると、ブチッと何かが切れる音がした。

カイの拳がテーブルの上に落とされた。
こんなカイは今までに見たことがなかった。
カイは行き場のない感情にあぐねているようだった。何か言いたげに口を開いたかと思うと、それを止めて、頭を抱えて溜め息を溢した。

おいおい。こんな感情表現豊かな奴だったか?

「でも、まさか、女絡みか?」

レイはカイの向かいのかしこまって正座した。
あの剣幕とか、まさかとは思うが口にしてみた。

カイは何も言わなかった。何も言わなかったが、そのまま俯き沈黙をしていた。

まさか。

まさかあのカイに女が?

過った思案にレイはどこか興奮していた。

レイはカイの隣に座り直して肩に手を置いた。

「何だカイ、お前彼女いたのか?もしかして喧嘩でもしたのか?」

カイの心配というよりも、好奇心の方が強かった。

「ん?」

俯き加減でカイが何かをぼそりと呟いたようだがよく聞き取れなかった。

「――勘違いされた」

額を押さえた状態のままぼそぼそとした声で言った。

「朝、お前が出掛けたあと突然来て、ベッド落ちている髪を見て浮気だろうと叩かれた」

「…………あぁー」

ことの程を明かされ、レイは何とも言えない生返事をするしか出来なかった。

白いシーツの上に落ちていた一本の長い髪。

近くに来たからと突然来た彼女が見つけたそれは、カイの浮気を証拠付けるもの以外の何でもなかった。
カイが説明をする間もなくその彼女とやらは恐れ多くも御曹司様の頬にビンタ一つを入れて出ていったらしい。
ことの全貌を聞かされたレイは何と言えばいいのか分からなかった。

「……うん、何て言うか、その、悪かったな」

とりあえず謝っておいたが、カイは怒っているのか落ち込んでいるのか分からなかった。
カイをこんなにしてしまう彼女とやらを是非見てみたいと思うレイだった。



end
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