お題

□13 帽子
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13 タカオの帽子


「ようカイ。こんなところで会うなんて奇遇だな」

商店街を抜けた河川敷沿いの道で、ばたりとカイとレイは出会した。
極自然な友人間の挨拶。
レイのチャームポイントである発達した白い犬歯が覗く。

「……」

レイの挨拶にぴたりと足を止めるも、カイの視線はレイの目線からやや上の位置に向けられる。
レイの頭に見えるのはいつもの黒い癖っ毛ではなく、赤と青のツートーンカラーのどこか見慣れた、けれどもとても違和感のある帽子。
カイの視線の先にある物に気づき、レイは悪戯に微笑む。

「どうだ似合うか?」

「ガキっぽいな」

「答えになってないぞそれ」

「その帽子についたイメージが拭えなくてな。似合うかどうかの前に帽子を被るならバンダナは取るべきじゃないのか?」

赤い帽子の下には、レイのトレードマークである対極図の入った赤いバンダナ。赤と赤の組み合わせにやや目がチカチカする。

「そういえばそうだな。すっかり忘れていた」

「というか何故木ノ宮の帽子をお前が被っている?」

近くには本来の帽子の持ち主の気配が見当たらず、それどころかこの場にいるのはレイのみのようだった。彼がタカオの帽子を被っている経緯が分からなかった。

「昨日大転寺会長のところに忘れて行ったらしい。渡すよう頼まれてな」

おそらくタカオたちは会長の所にでも遊びに行ったのだろう。皇大地やマックスと馬鹿騒ぎをしている内に忘れていったに違いない。レイにしてもまめにBBA本部に顔を出しているらしいので、その際に頼まれたのだろうと推測した。

「それは難儀だな」

余計な使いを頼まれたことを不憫に思う。
自分であればそんな使いは頼まれても断るだろう。その上で忘れていった本人に取りに来させる。そう思ったところで、事情を聞いたレイの方からその使いを進んで買って出たのではと思い至る。
シビアな意見を持ちつつも、結局最後には甘さが出るのがレイという人間だとカイは認識している。
そういうのを人は「優しさ」だと言うのだろうが、カイにとっては「甘さ」に他ならない。
レイのその鬼になりきれないその性格と、そういう立場にならざる得ない現状を難儀だとカイは称した。

「会長は忙しいからな。手を煩わせるわけにはいかないだろ」

それがレイの買って出た理由らしい。
その深意には、レイが日本に滞在する上で何かと支援をしてもらっていることに対する恩義もあるのだろう。あまりレイの私生活を聞くことはないので分からないが、子どもがたった一人で異国に長期滞在するなどそう容易ではないことは直ぐ分かる。そういったサポートをBBAが全面的にしているのだろう。

「まあ、俺には関係ないけどな」

カイはそう言って肩を竦めた。
その影で、レイは思い付いた悪戯に犬歯を覗かせることに気付かず。

突然、カイの頭が圧迫に襲われる。

レイが被っていたタカオの帽子をカイの頭に被せたのだ。

「――何をする!」

「はははっ!本当だ。ガキっぽいな」

レイが大口を開けて笑った。
暖色系のツバ付きの帽子とカイのイメージとがミスマッチだった。
腹を抱えて大袈裟に笑うレイにカイは口許を引きつらせた。




END
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