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□78 待ちぼうけ
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78 待ちぼうけ


乾いた肌寒い空気。
土と枯葉の匂い。
それまで赤や黄色の鮮やかな色に染まっていた木々は、すっかり寂しくなっている。
空は清々しいほどに真っ青なのに、何故か憂鬱な気分にさせた。

またあの季節がやって来る。







「あ!レイちょっと待ってくれよ」

公園の前を通ると、タカオが声を上げた。
ガサっと買い物袋の擦れる音がする。
レイがタカオの方を振り向くと、タカオの視線の先には人だかりが出来ていた。
どうやら大道芸か何からしい。
今時古いラジカセから警戒な音楽が流れ、人が歓声を上げている。

「サーカスかな?ちょっと見てみようぜ」

タカオは目を輝かせて言った。

「サーカスにしては規模が小さくないか?それよりまだ買い物の途中だろ」

レイが嗜めるように言った。
タカオの家に居候をしているレイはタカオの祖父のお使いで晩ご飯のおかずを買いに商店街まで来ていたのだ。
今は野菜を買い揃えたところで、あとは肉屋に行く用がある。

「なあ、ちょっとぐらいいいじゃん?」

タカオは手を合わせて、頼み込んできた。
どうしてタカオはこうも注意力散漫なのだろうかと呆れてしまう。

「なら先に肉屋行って帰るからな」

「そんなこと言うなよ〜!ちょっとだけだからさ」

「俺待つの嫌い。来なかったら先に行くからな」

「わ、分かったよ!直ぐに行くから!待っててくれよな!」

そう一気に言うと、体が待ちきれないらしくタカオは人ごみの中に駆け込んでいった。

「だから待たないって言ってるのに」

レイは苦笑いを浮かべて、ため息をこぼした。
ここでタカオに合わせていたら日が暮れてしまうのは目に見えている。そうなれば、タカオの祖父の雷が落ちることも必至。
憂うべき自体を避けるためにレイは先に精肉店へ急いだ。

精肉店で生肉の支払いを済まして、レイは来た道を見返した。
あの元気な帽子の少年が駆けて来る様子はない。
恐らく、今頃大道芸の虜になっているに違いない。

「本当にしょうがない奴だな……」

仕方がなく、レイは公園に様子を見に行くことにした。
人はさっきよりも増えていた。
その中にタカオの姿を探した。
赤と青のコントラストの帽子を見つけて直ぐに分かった。
案の定、タカオは大道芸人の前に体育座りをして目を爛々と輝かせている。
人並みより視力のいいレイにはそれがはっきりと分かった。
本当は引っ張り出して、連れて帰りたところだったが、ああも無邪気な顔を見ているとまるで自分が悪者のような気持ちになってしまう。
タカオという奴はそんな風に思わせてしまうような不思議な魅力があった。

「やれやれだな……」

レイは近くのベンチに座った。
買い物袋を隣に置いて、大道芸人を取り巻く子供たちの姿を遠巻きに眺めた。
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