お題

□38 ひざ掛け
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38 ひざ掛け


「ひえ〜さみぃ〜」

肌を突き刺すような冷たい北風に、タカオは小さく悲鳴を上げた。

「今週から冷え込むと天気予報でも言ってましたからね」

隣を歩いているキョウジュも肩をいからせているため、元々小柄な体が更に小さく見える。
二人は早足で廊下を突き抜け、教室に飛び込んだ。

教室には既に登校してきた生徒が数名おり、タカオ達を見て「おはよう」と挨拶が飛び交う。
適当に挨拶をして自分の席に着くと、タカオがキョウジュにぼやいた。

「なんか、あれ見ると冬が来たなって思うよな」

「あれとは?」

「ひざ掛けだよひざ掛け。女子が足にぐるぐるって巻いてんじゃん」

女子生徒がひざ掛けを巻いて暖房の前を陣取り立ち話をするのは冬場の学校でよく見る風景の一つである。
今はまだ暖房の許可が下りていないため、暖房器具の前ではないがまさにそんな女子をキョウジュは見つけた。

「あぁ。確かに」

「でもさ、女子って寒いくせになんであんなミニスカートにするんだろうな?」

「寒い」と愚痴を漏らしつつも、スカートを短くしているのは男子にとって女子の謎の部分の一つである。

「そこはやはりお洒落重視しているんじゃないですか?」

「お洒落ねえ。あ、でもあれはないよな」

「あれとは?」

タカオの止まった視線の先をキョウジュもつられて追った。

「あぁ。確かにあれはないですね」

至極真面目にキョウジュは答えた。
その視線の先にいたのはスカートの下にジャージを履いた通称「はにわスタイル」。
あくまでもミニスカートを保ちつつその下にジャージをインする姿は最早、キョウジュの言う「お洒落」とは矛

盾している。

「何でも、近所の人から『格好が悪い』と学校に苦情の電話が入ってるらしいですよ」

「そういえばじっちゃんも『けしからん』とか言ってたな」

「年配の方には受けが悪いですよね」

「かと言って女子がスカートじゃなくて、ズボンだったら凄く残念だよな」

「男の勝手な言い分ですけどそうですよね」

男の悲しい性分に、なんとはなしに二人は顔を背けてため息をついた。

「何が勝手なの?」

背後からかかった声に、タカオとキョウジュは大袈裟にびくりと体を揺らした。
慌てて振り返ると、そこには小学校からの馴染みの立花ヒロミが立っていた。

「ヒ、ヒロミ?!いきなり話しかけるなよな!」

「何よ。まさか私の悪口を言ってたんじゃないでしょうね?」

タカオの慌てぶりにヒロミは目をつり上げた。

「と、とんでもない。ただ世間体というものについて……ああ!」

「な、何よ急に?びっくりするじゃない」

「どうしたんだよキョウジュ」

いきなり大きな声を出したキョウジュにタカオとヒロミは目を大きくした。

「タ、タカオ!答えはまさに今目の前に!」

「答え……?あ!」

キョウジュが指した先――ヒロミの足元をタカオは見た。

「「黒タイツ!!」」

示し合わせたかのようにぴったり声を合わせたタカオとキョウジュに、ヒロミは何が何だか分からず自分の身な

りを確認した。

「え?何?タイツがどうかしたの?何か付いてる?」

「すっかりこれの存在を忘れていました」

「俺も。履いてる奴ってあまりいないもんな」

「制服に黒タイツは基本ですね。これこそが真理です。私としたことがそれを忘れていたなんて」

「ちょ、ちょっと何の話よ?私にも分かるようにちゃんと説明しなさいよね」

「さすがは学級委員だな」

ぽんとヒロミの肩に手を置いてタカオはうんと頷いた。

「なんかムカつくんだけど」

「いえ褒めてるんですよ。ヒロミさんは今のままのヒロミさんでいてください」

「だから何なのよー?!」


end
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