カイとレイ

□魂の記憶
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「夢を見た」

レイは木の下で微睡みに閉じていた瞼をゆっくり開き、出し抜けに言った。

「何だ?」

隣にいたカイは聞いた。
寝起きのレイの声はよく聞き取れなかったからだ。

レイは胸の前に手を重ね、木に寄りかかったまま、顔にかかる木漏れ日に目を細めた。

「カイが泣いている夢を見た」

「俺が?有り得んな」

カイは笑った。
泣くなんてことは暫くしていない。
これから泣くようなことがあるとは思えないし、泣く気もなかった。
泣いている自分など想像するだけで不愉快だった。

何故レイがそんな夢を見るのか不可解だった。

「もし俺が死んだら泣くか?」

レイは言った。
その眼差しがあまりに真剣なものだったので、カイは溜め息をついた。

「……くだらんな。つまらないもしもの話など考えても無駄だ」

「何だよ。嘘でもいいから言っておけよ」

「意味が分からん」

嘘をついてまで言っておく意味が分からなかった。

「じゃあ、俺から言っておくよ。絶対に俺のためなんかに泣かないでくれよ」

レイはカイに笑って言ったが、カイは笑うことが出来なかった。

「……何でお前が泣くんだ?」

戸惑った顔でカイはレイに言った。
その言葉にレイは自分の頬に指先を這わせた。
指先が滴に触れた。
そこでレイは初めて自分が泣いていることを知った。

「何でかな」

レイは呟いた。

それはとても悲しい夢だった。
夢の中でレイは死を実感する自分の体で、震える唇で、音にならない声で「どうか泣かないでくれ」と訴えていた。

その声は夢の中のカイに届かなかった。

だから、もしカイの腕の中で死ぬことがあったら、もしその時夢のように声を出すことが出来ない状態だった時のために、今からカイに伝えておくことにした。

レイは直ぐ側にあるカイの手を握った。
温かいその手は生きている証だった。
レイは夢の中のカイに贈った。

「どうか泣かないでくれ」





END
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