長編

□少年森に迷う
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カイは白の国の北東部にある都を目指して歩いていた。
そのためにはまず白老峰を目指して歩く必要があった。

白老峰は白の国であればどこからでも見ることができるほど大きな山だ。
その周りには白老峰と同じく白い岩肌の山が連なっていて、山の麓には深い森が広がっている。この国の者でもこの森を隅々まで知る者はいなかった。この国の3分の2の面積は森と山であると同時に未開の地であった。
町や村があるのは国の東側のみであり、白老峰の東北東にこの国の都がある。この国で最も栄えた場所であると同時に皇帝の住まう地であった。

カイは南からこの森を抜けてその都を目指していた。
険しい森を進んで行く。
何日くらい歩いただろうか。途中で小さな村で一泊し、それから4日が経っていた。それからずっと歩き続けだった。
今までの人生でこんなに歩くのは初めてだった。自分の国にいたときは移動手段の殆どが馬か馬車だったからだ。
白の国の特徴の一つに、この国には非常に有能な武芸が盛んなことが挙げられる。
森や山岳が多いこの国ではあまり馬は使わないのだろう。武芸者としての基礎体力がこの厳しい自然の土地によって積み重ねられているのかもしれない。

森を抜け山を歩き、また森に出る。その繰り返しだった。
途中幾度と獣に出会した。この国の獣は非常に警戒心が強く獰猛だ。
こんな場所に暮らす住民は常に死と隣り合わせだろう。それでも、町の人間よりはずっと平和に見えた。

カイは途中大きな川を越えた。
そこまで来てカイは妙な既視感に襲われていた。最後に村を出てからずっと北東に真っ直ぐ向かって進んでいる筈だった。
深い森のせいか、同じ場所を歩いているような錯覚に陥る。
幾ら進んでも進んでいないのではないかと思ってしまう。

認めたくはなかったが、すっかり道に迷ってしまったらしかった。とは言っても道らしい道など最初からなかったが。

そろそろ体力も限界だと思った。人には全く会っていない。
食べ物もいつしか底をついた。食べられるかよく分からない木の実や草を探したりもした。
だがどれも顔をしかめたくなるような味だった。

暫く道とも言えない道を感覚で歩いていると先に泉が見えた。
喉も渇いてきたところだったので、そこに立ち寄ろうとカイは心なし足を早めた。

すると木の上から何かがカイの足元に落ちてきた。
ぽとりと草の上に落ちる。
直径2cmほどの、果物の種のようなものだ。鳥か、猿でもいるのだろうか。
もしそれらが食べた物であれば、カイにも食べることが出来ると言うことになる。

カイはその先を見上げた。

そこの木から長い尻尾のような物がぶら下がっていた。黒い毛質の、まるで人の髪のようだった。

木の上で葉がガサガサと揺れた。

「ん?こんな所に人間が来るなんて珍しいな」

ひょっこりと逆さまの人間の頭が現れた。
そいつは木の枝に足を組ませながら逆さ吊りの状態で赤い木の実を食べていた。
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