長編

□少年都を訪れる
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少年都を訪れる





カイは虎の子が言った通りに森の中の小さな村で一泊をした。
次ぐ日には北東に向かった。そこはまだ人の行き交いがあるらしく、道になっていた。
そこの村は舟渡しを生業にしている村らしく、大きな大河に沿って村が出来ていた。
雨が降らない限りその川は緩やかなものらしく、小舟で都近くの同じ様な舟渡しの村まで乗せてくれた。
カイは舟賃を渡すと舟橋に降りた。
長く水の上にいたせいか、揺れているような錯覚をした。
この村から都までは荷車が出ているという事だったので、カイはそれに乗ることにした。

南から東を周り北東に位置するこの白の国の都を目指してきたが、北上するほどに国は豊かになっていた。人間も最初に訪れた町よりはずっとまともな人間が多い。

それでも、この国はどこか陰気臭く、皆が暗い目をしていた。

カイは荷車の荷台に乗っている内に最初に訪れた町で会った、あの盲目の老人の言葉を思い出した。

この国は病気なのだと言っていた。
神子がいない国は滅びると言っていた。

神子というのは聖獣と唯一心を交わすことが出来る存在のことだ。
そして聖獣というのは獣の姿を成した土地神のことで、この世界には五つの国があり、各々の国に土地神の聖獣と神子がいることになる。

聖獣は国によってその容姿は違った。この白の国の場合は白い虎の姿をしていると言う。
何れの国でも聖獣は国の護り神として崇められてきた。
聖獣は滅多に人前に現れることはなく、また一般には見ることもその存在を確認することも出来ないという。
聖獣の怒りを買えば災いが起き、聖獣を讃えれば国は繁栄をしたという言い伝えられている。
そして神子はその字の通り「神の子」だ。神に愛された子。神を従える者。国によってその伝聞は違うが、聖獣を見ることができ、話をすることができる特別な存在として崇められ、尊ばれ、愛され、恐れられるという。

そして神子となった人間はは何千年という歴史の中で国と聖獣を繋ぎ続けて、今も尚それは繰り返されている。

だが、この国では神子が500年近くも生まれていないらしかった。

それがこの国をこんなにも寂れさせてしまっているのだろうか。

たった一人の人間に何れ程の事が背負わされているのか。

それが真実なのであれば、実に下らない連鎖だとカイは思った。

白い砂が舞っている。この砂はこの国の隣にある黄色の国から飛んでくるのだという。
その砂は空高く風に運ばれ、白老峰の山々に積もる。そのために白老峰の山々は年々その標高を高くしているなどという逸話もあった。

風が止まると、地平線の向こうに大きな町が見えた。


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