長編

□少年都を訪れる
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白の国の都はほとんどが白い壁の建物で出来ている。それは白老峰の岩石から作られたものを使用しているからだった。
そのために街の中は皆同じ建物に見えた。

カイは街に入って直ぐのところで荷車から降りた。荷車の主はそのまま市へ行くらしい。運賃を渡すとそこで別れた。

街の北側にある丘の上には赤い屋根の大きな建物が見えた。あそこが白の国の皇帝が住まう城というわけだ。
首都というだけあり、人や店が多かった。
街頭で演舞や武芸の見世物をしている者もいた。

往来で果物を取り扱う小さな出店の前で足を止めた。
あの虎の子が食べていた赤い実――すももに似たものが目に入った。森で見たものより若干赤みが強く見えた。
カイがまじまじとそれを見ていると、品物に興味があると思われたらしく、太った中年の女性の店主が丁寧に説明をしてくれた。

「それね、この国のすももっていう実を外国向けに品種改良したものなんだよ。プラムって言うんだけど美味しいよ。まだ最近出来たものだからあまり出回ってないけどね」

特に食べたかった分けではないが、気の良さそうな店主に気が引けたので結局一つ買うことにした。

「兄さんカッコいいからおまけするよ。美味しかったら是非周りにも勧めておくれよ」

店主はもう一つカイの手にプラムを持たせるとウィンクをした。

カイは今日の宿屋を探した。久しぶりにまともな床につけると思った。
これまでで寝泊まりしたのは森の中や、小さな町の固い座敷の上に薄い布団を引いた程度のものだった。

カイの国では床に寝るという習慣はなかった。平民だろうが貴族だろうが、床は足をつけるためのものだったからだ。

町の中に川が流れていて、そこに小舟が客を乗せていた。
その先に赤い柱の橋が架かっていた。
カイは橋を渡った。

ドンと過ぎる人の肩とぶつかった。
その拍子にプラムを一つ落としてしまう。

「おっと、ごめんよ」

青年が慌てて落ちたプラムを拾った。軽く埃を落とし、傷がないかを見るとカイに渡した。

「すまない。少し傷がついてしまったみたいだ。弁償するよ」

「別に構わん」

元々ただで手に入れた物だ。別に損はしていなかった。

それよりもカイは青年が気になった。銀色の髪の長い青年。黒い髪が特徴である白の国の者とは違うように思えた。

「――君、この国の人ではないよね?実は俺も青の国から来たんだ」

青年もカイに対して同じことを思ったらしい。
青年の人懐こい笑顔にカイは否定も肯定の返事もしなかった。

「これも何かの縁だし、良かったらそこの店で食事を一緒にどうかな。李の弁償もしたいし奢るよ」

「……別にいいと言っている」

ずいぶん馴れ馴れしい奴だと思った。
カイはそのまま青年の横を通りすぎた。

「じゃあそのすももの詫びだけでも」

青年はそれでも必死にカイを呼び止めた。

「いらんと言っている。青の国の人間は人に親切を押し売りするのが趣味なのか?」

カイが不機嫌丸出しに言うと、青年は呆気に取られたのか黙り込んでしまった。
カイは一瞥してからそのまま青年が来た方へ歩き出した。

カイが去った後、橋の上に立っていた少年は微かに口端を吊り上げた。



つづく
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