長編
□少年青年に出会う
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「――何が言いたい?」
カイは低い声で聞いた。
「俺にはね、生まれつき特別な力があるんだ。普通の人が見えないものが見えたり感じられたりね。そういう力を持つ人間ていうのは不思議と同じような人間が分かるんだよ」
青年は顎の下で両手を組んだ状態で、カイの目をじっと見てきた。
「俺にそんな力があるとでも言いたいのか?仮にあったとしてそれが何だという?」
カイは笑った。
この男が如何に馬鹿げた話をしているかと嘲笑うように。
そして、そんな嘲笑の裏で後悔もしていた。
財布を奪い返した時点でこの店を去ればよかった。あるいは、財布などこの男にくれてしまえばよかったのだ。
この男に関わるべきではなかった。
そう思った。
そんなカイの苛立ちや焦りは目の前の男には筒抜けだったのだろう。
男はカイとのやり取りを楽しんでいるようだった。
男は酒瓶を掴むと新しい酒をお猪口に注いで言った。
「それは君がこの旅に求めている答えに深く関わっているかもしれないからさ」
カイの胸は鎖で締め上げられるような不自由な感覚に陥った。
その一瞬だけが、周りの全てを含めて静寂の中にあったように錯覚した。
カイは椅子を引いて立ち上がった。
青年を見下ろす。
「貴様は誰だ?」
「そうだな。それを話すにはここはちょっと人が多すぎる。この直ぐ近くに宿を取ってるんだ。そこで話をしよう。でもその前にもう一杯だけ飲ませてくれないか?」
男は席を立つと、近くを忙しなく駆け回る若い女中を呼んだ。