長編
□朱の神子夢を見る
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朱の神子夢を見る
朱雀の神子――朱の国の聖獣朱雀の子。朱雀に選ばれた特別な人間。
人々は神子というだけでカイを敬い、恐れた。
それはカイにとって忌まわしき言葉に他ならなかった。
ジンは椅子から立つと窓の外を見た。
街には明かりが点っていたが、月や星は鉛色の重たい雲に覆われいた。
だからなのか、この国の人間のように重く、湿気た色をしていた。
「今でこそ神子の存在はただの名ばかりのものになってしまっているが、それではいけないんだよ」
「神子に力などない。そんなものは信仰上のただの吐き出し口に過ぎん」
カイはジンの言葉に反発するように言った。
カイには特別な力などなかった。これまでにただ一度たりとも国のために、誰かのために何か出来たことはなかった。
人々はただ、聖獣だ、神子だと崇めて、自分ではどうにでもならない力に対して在りもしない神に頼っているだけだ。
そういう人間をたくさん小さい頃から見てきた。
人に頼ることが嫌いなカイにとって、それは一番気にくわないことだった。
「それは違う。白虎の神子が生まれないから、神子の力そのものが弱くなっているんだ。そのせいで神子同士の結び付きも弱くなってしまった。だけどそれではこの世界は壊れてしまう」
ジンが言った。
「世界が壊れるだと?馬鹿馬鹿しい」
カイは鼻で笑った。
そんなものは幻想だと思ったからだ。
「君も見たはずだ。神子のいないこの国を。この国だって500年も昔はもっと活気があったし、希望に満ちていた。神子がいなくなったことで少しずつそれが悪くなったんだよ。人だけじゃない。生態系だってね。一つ国が無くなれば、他の国だっておかしくなってしまうんだ」
ジンの熱い眼差しがカイに向けられた。
ここで初めて、笑う以外のこの青年の顔を見た。
「国が一つ無くなれば、それが周りの国に影響するのは当然だろう。しかしそれは神子がいないせいなんかじゃない。この国の統治者が代々ろくな政策を行ってこなかったせいだ」
自然の災害こそは人の力ではどうにもならないだろう。
しかし、今ある国の資源で如何に国を回していくか、それを講じるのが有権者であり皇帝だ。
カイにしてみれば政を行うこの国の皇帝の不出来が招いた結果に他ならないと思った。
「ならカイ、君は何故国を出た?何故国を出て、わざわざこの廃れた国に来たんだい?ただの道楽で出たわけではないだろう?君は神子であることに疑問を思っていた。そうじゃないか?」
「俺は神子だ聖獣だなどと縛られる人間に嫌気がしただけだ。――ただの道楽、そう言ってしまえばそうだろう」
「ならそれでも構わない。君は君なりに神子の存在に疑問を抱いているわけだ」
「……」
カイは沈黙した。
ジンの言っていることを否定できなかった。
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