長編
□朱の神子夢を見る
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「本題はここからだ。立ってないで掛けてくれ」
ジンは立ちっぱなしのカイに言った。
ジンは部屋に備えてある湯沸し器を火にかけた。茶器と茶葉を出していたので、茶を入れるつもりらしい。カイは椅子には座らず、窓の近くに寄った。
熱くなってしまった頭を冷やすにはちょうどよかった。
ジンの話はカイの予想を大きく越えていた。
神子という力から背けるように国を出たカイに、それはどこにいても付きまとわれているようだった。
窓を見た。
外は闇の中で、所々に明かりが灯っているだけで、あとは雨の音しかしなかった。
雨は嫌いだった。いい記憶がないからだ。
カイは拳に握力を込めた。何かを覚悟しなければならない、そんな予感がした。
湯が沸くとジンはお茶を二つ用意した。
それをテーブルに並べた。
「お茶、飲んで」
「……一つ聞きたい」
ここでカイは初めて自らこの問題に対して積極的な姿勢を見せた。
ジンはそれをよしと穏やかに微笑む。
「どうぞ?」
「500年もの間、何故黄の国は動かなかった?……いや、動いていなかったわけではないだろうが、500年も分からなかったことが今更分かるとは思えん」
当時のことは当時の者がよく知っているはずだ。時と共に人の記憶も情報も風化してしまうのだから、調査はより早期に行われていたはずだ。
神子一人の存在で国が滅びるなどと騒いでいるのだからそう考えるのが道理だ。
「いい質問だね。やっとその気になってくれたのかな」
ジンが茶化すように言った。
「違う。貴様との長いお喋りを早く済ませたいだけだ」
「まあそれは俺がこれから話そうとすることに関わっているんだ。腰かけてよ」
ジンがしつこく言うので、カイは軽く舌打ちをしたあとジンの向かえの椅子に座った。
「時が経てば経つほど情報も正確じゃなくなるってのは当然だ。黄の国は各国の神子を統べる場所だから、当然行動は起こしていた。起こした上でこの約500年後である今がこの問題を解く時だと黄龍妃様は予見されたんだ」
「何故今なんだ?」
ジンの勿体ぶった話し方が気に入らなかったが、カイは気持ちを押さえた。
「君は知ってるだろ?神子っていうのは神様――つまり聖獣の子だ。諸説はあるけど、神子と聖獣には人で言う遺伝子のような繋がりがあると考えられている。だから、次の神子は先代の神子の血族であるわけ」
「朱の国のようにか?」
カイは忌々しげに言った。神子の力は尊ばれる。それ故にその遺伝子とやらを守るために外部の者と交わることを拒む。
そうして神子の一族としての立場を守っているのだ。
ジンは顎の下に手をついて、カイを窺うようにちらりと見てきた。
「カイは転生輪廻を信じているか?」
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