長編

□朱の神子皇に謁見す
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朱の神子皇に謁見す



カイはジンとこの街の北側にある白の国の城に向かった。
城は丘の上に建っており、城門付近では兵士が巡回をしていた。

兵士は城門近くにやってくる異国の青年と少年に対し、不審の目を向けていた。
当然と言えば当然であろう。
特にこのジンという青年は一見優男だが、胡散臭い空気を纏っている。
隣にいる少年カイとてまだこの青年を信用しているわけではなかった。

ジンは進み出て門番の兵士に話しかけた。

「本日皇帝と謁見の約束しているジンと申します。取り次ぎをお願いしたいのですが」

ジンは門番に声をかけた。門番の二人はひそひそと話し合うと、その内の一人が門の中に入っていった。

「今確認をする。そこで待て」

残った一人の門番は言った。
それから数分ほどでさっき出ていった兵士が慌てて戻ってきた。

「お待たせしました。確かにお話は通っていました。どうぞ中へお入りください」

先程とは打って変わって、丁寧な言葉で頭を下げると前を開けた。

そのまま本殿まで真っ直ぐ道を通ると、赤い衣装の文官らしい男が出てきた。

「あなたが黄の国の遣いの方でしょうか?」

肥満気味の男は重たそうな瞼に埋もれている細い目でジンをじろじろと見た。

「はい。先に文書にてお伝えをしたジンと申します。ここに証文もございます」

ジンは懐から巻子を取り出すと、その結びをほどき男に開いて見せた。
男はそれを確認すると頷いた。

「確かに。黄の国の使者とお見受けします。謁見の間までご案内致します」

文官の男は態度を改めるとジンとカイを階段の先に案内した。

無駄に大きな開き扉の前に行くと、扉の左右には槍を持った武官がいた。
文官が合図をすると武官の二人は扉を開いた。

広い部屋の真ん中には赤い絨毯。壁には白い布に金色で虎の絵が描かれた旗が掲げられている。

一番奥の玉座には金色の刺繍が施された白い衣装を羽織に、白髪混じりの頭と同じく白い毛の入り交じる顎髭を生やした男がいた。即ちこの男こそが白の国の現皇帝であった。
カイの把握している実際の年齢よりもずっと老けて見えた。
何か病を患っているのではないか、そう思えるほどそのシワの刻まれた顔には疲れが伺えた。
ジンとカイは皇帝を前にして膝間付いた。

「お主がジン殿か。黄龍殿より話は窺っている」

「この度はお時間をいただき有難うございます」

玉座を前にジンは頭を下げて頭を述べた。

「文書では使者は一人と聞いていたが、そちらの少年は?」

皇帝の目がカイを見た。
カイは俯いたまま黙った。

「私の従者をしているカイと申します」

誰が従者だ、と文句を付けてやりたかったがここで本当のことを言うわけにもいかないためカイは黙っていた。
ジンの受け答えに納得したのか、あるいは最初から大した興味がなかったのか皇帝の注意は直ぐに逸らされた。

「――して、此度の調査はどうだ?」

「はい。残念ながら未だ核心には至っておりません」

その言葉に酷く落胆したらしい皇帝は椅子に脱力したように深く座り溜め息を溢した。

「はい。そこで教えていただきたいことが一つございます」

「うむ。申すがよい」

「白虎族の村の場所を教えていただきたいのです」

白虎族。聞いたことがない名だった。
「白虎」という名が付くくらいなのだから神子にゆかりのある一族であることは確かだろう。
ジンもカイも王の回答を待った。
王はひときしり長い髭をすくと、伏し目がちに答えた。



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