長編

□朱の神子皇に謁見す
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「……それはできぬのだ」

「このような状況下であってでもですか?」

ジンの声には半ば王を咎めるような響きがあった。

「そうではない。あの村の場所は我々にも分からないのだ」

「それはどういうことでしょうか?」

「お主も知っての通り、白虎族は白虎の神子出生の一族として代々皇族と深い関わりを持ってきた一族。それ故に、村の場所は聖域とされ一族の者以外その場所を知ることはできぬのだ」
「この国の王であってでもですか?」

「左様」

「ですが、それでは今までどうやって神子の存在を確認していたのですか?」

「一族の者と通じるときは必ず一族からの使者を通していた。わしも伝承でしか知らぬことだが、先代の神子は7つの齢に一人で村を発ちこの都に訪れ、そして黄龍殿へと参上したという」

「かつてはそうしていたということですね」

「……うむ。しかし、先代の神子の消失を境に白虎族からの使者が途絶えてしまったのだ。かつても黄龍殿の使者や我らの士官が一族の村を探しに出たがついに見つかることはなかった」

「それでは、最悪の場合白虎族そのものが滅びてしまった、そういうことも有り得るということですね?」

ジンの発言に皇帝は頭を抱えた。

「考えたくはないが最悪そういうこともありえるのだろう……。なんということだ……」

王は額を抑えて項垂れた。

「もし可能であれば史書を拝見することは可能でしょうか?」

「……勿論だ。今は天にもすがりたい思い。白虎の神子のためであれば自由に調べて構わない」

「有り難うございます」

ジンは深く礼をした。

「司書官に伝えてくれ。この者たちの望む資料をすべて出すようにと」

「はい」

皇帝が側近に指示をすると側近の男はそそくさと謁見の間から出ていった。

「他に必要なものがあれば申すがよい。我らも尽力をつくそう」





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