小説H
□玉章連載
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幾多の妖怪の屍が横たわる血にまみれた路上に、ぬら組の妖怪が大狸が膝をつく前に集っていた。
膝をついた狸は、四国を牛耳る犬神刑部狸。犬神刑部狸がかばうようにして後ろに隠している妖怪は、あの玉章であった。
玉章を見逃してもらうかわりに、リクオが条件を出し、その場が丸く収まりかけた、そのとき。
しとり、しとりと天からやわらかい水が降りてきたのだった。
戦火を消す雨の如くその場の血を清める雨に、妖怪たちは天を仰ぐ。
が、犬神刑部狸とリクオ、ぬらりひょん、そして玉章だけは、目を見開いて突然姿を現した彼女を見つめていた。
雨とともに現れる彼女といえば、勿論。
「終わったんだね。」
彼女であった。
「・・・何故。」
力を失った玉章が、力なく顔を上げ、玉章の前にしゃがみこんだ彼女を見た。
音も気配もなく、彼らの間を通って行ったはずの彼女を、見つけることすら、気付く事すら出来なかった犬神刑部狸とぬらりひょん、リクオの三人は、呆然とした様子で二人をみていた。
三人の視線を背に受けた彼女は、それに気をやる事無く、玉章の問いに口を開く。
「私は、仲良くしたいだけだったんだよ。」
「・・・なにを・・・言っているんだい。」
「皆が仲良く、楽しく、平和に、ずーっといっしょにいられたら、私はそれでよかったの。」
「・・・・っ、?」
こんなときに、彼女の名を知っていたら格好つけられたのだろうけど、と、玉章は心の内で小さく思いながら、少しうつむかれた彼女の顔を覗き込む。
彼女は、寂しそうな顔を少しだけみせ、すぐに柔らかい笑顔を見せた。
「でもいいよ。君が今、そうして無事でいられるなら。」
「・・・・無事、か。」
「うん。」
よかったね。
何がよかったというのだろう。
いまや彼を取り巻いていた仲間は消え去った。自分がすべて殺したのだ。自らの力とするために、自らが斬り殺したのだ。
と、まさかそんなことが彼女に言えるはずもなく、彼は眉間にしわを寄せ、面に隠れた顔をうつむかせる。
だが、彼女は、それも構わずに彼の髪を撫でた。
普段の黒い髪とは似ても似つかない、白い髪を優しく撫でた。
聖母のような笑みをたたえて、彼女はやっぱり、言った。
「よかったね。」
「・・・。」
「もう、間違いは起こさないね。」
「!」
ぱっと、顔を上げた。
彼女はいつものように笑っていた。
玉章は、くしゃりと顔をゆがめ、その顔を見られぬよう、下を向きながら、うん、と唸った。
「よかった。」
「・・・うん。」
玉章の頭を撫でる手は、最後まで、優しかった。
冷えた肌に温もりを
―――――
四国編の最後です。